善処する ページ42
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汽車の駅までの道中、「本当に良かったのか」と一度だけ聞いた。
彼女は、迷いなく頷いて、「あのような怪物が、今後も家を襲うことと比べたら、わたくしが出ていくことなど些末なことですわ」と言った。
「なぜ、鬼殺隊の詰め所へなどと」
「こんな体でふつうのお仕事をしていたら、今後はそのお仕事の先に鬼を呼んでしまいますから。
二度も命を救っていただいたし、剣は振れませんけれどせめて何かで鬼狩り様のお役に立てたらと思いましたの」
どうでしょうか、と首を傾げる彼女を、俺はなんとも言えない気持ちで見る。
できそうなところといえば、蝶屋敷の手伝いか、縫製係か、あるいは柱や御館様の屋敷付きか。
「あまり、綺麗な仕事はないぞ」
俺はいろいろ考えた結果、そう言った。
彼女は、わかっていると言いたげな顔を一瞬のぞかせたが、ふっと目を逸らす。
「そう、ですわね」
しまった、彼女の決意を踏みにじってしまったかもしれない。
俺は改めて、自分の言葉選びの悪手に苛立ちを覚える。
いたたまれない沈黙が流れる。
「…今着ているのは、あのときの制服か」
「まあ、覚えておいでですか？さすがに、振袖で歩き旅は、冨岡様にご迷惑だと思いまして」
振袖を着ているときよりも、幾分快活というか、年若く見える。
袴に洋靴の組み合わせは、確か最近の女学生の定番らしいと、胡蝶姉妹に聞いたことがあった。
「藤色の振袖も、よく似合っておられた」
ほんの一瞬しか見ていないが、俺はほとんど反射的にそう言って、…まるで口説いているみたいだ、と一人反省する。
「ふふ、照れますね。
あの着物は、いただいたお守りに似たものを選ぼうと思って、父に方々探してもらった生地で仕立てましたの」
ほら、藤の花は、鬼除けによいとおっしゃっていたし、縁起がいいでしょう。
「残念ながら、鬼除けにはならなかったけれど、わたくしは自由になれたから、縁起ものですわ」
「自由に？」
「ええ。わたくしちっともお嫁になんて行きたくなかったの」
だからちょうどいいの。
A殿は、わざとらしくさばけた口調で言った。
言って、ちょっとだけこちらに顔を向け、いたずらっぽく笑った。
初めてみる表情だった。
「お嬢さん、を、卒業しないといけませんからね」
「…そうか」
「ですから、冨岡様も、わたくしをA殿、ではなくて、A、とお呼びくださいね」
「…善処する」
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瑞姫(プロフ) - 今吐露2でリアルに泣いております、、思わずよくわからない報告コメント申し訳ないですめちゃくちゃ好きですこの作品 (2020年6月24日 23時) (
レス) id: 445b4986a2 (このIDを非表示/違反報告)
pink0223xxx(プロフ) - はじめまして、更新お疲れ様です。素敵な言葉遣いや雰囲気が想像がしやすくてどんどん引き込まれていきました。泣いたり笑ったり楽しかったです。応援してます！ (2020年6月3日 21時) (レス) id: 086d84223c (このIDを非表示/違反報告)
おんたま(プロフ) - はじめまして。更新お疲れさまです。完成度が高くすごく素敵な作品だと思います。無理のない範囲で更新頑張ってください。応援しています。 (2020年6月3日 2時) (レス) id: 8f0607afea (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - お返事できてないお三方、コメント返信できてなくてすみません、いつも更新遅くてすみません、読んでくれてありがとうございますloveです (2020年6月2日 19時) (レス) id: 100d291aa9 (このIDを非表示/違反報告)
madoka(プロフ) - 更新お疲れ様です！ずっと待ってました〜っ！！これからも頑張ってください。 (2020年5月24日 21時) (レス) id: f3e815359c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：イトカワ | 作成日時：2020年4月19日 22時
