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26話 ページ26

***


目が覚めてからのことは、夢のなかの出来事のようにおぼろげだった。
喉に入れられていた管が抜かれて、喋ることができるようになってからは、毎日のように警察官が私のもとを訪れた。
まだ童磨の意識は戻っていないと聞かされた。

「あの毒物の購入経路を調べたら、君が半年ほど前に購入していたことがわかった」

「血液検査の結果、意識不明の男性と君の体には毒物を定量的に摂取していた痕跡が残っていた」

「一方、君の体を医師が診察したところ、首や手足に強く絞められたような痕が見つかった。
 君は、日常的にあの男性から暴力を受けていたのか?
 それから逃れるために、無理心中を図ったのか?」

警察官は、威圧的に追及する。
状況から推測されるストーリーが、もうできあがっているらしかった。
なるほど、こうしてワイドショーで煽情的なストーリーだけをまとわされて曝されるのだな、とぼんやり思う。
そうだ、あの薬は、私が以前自死したくてたまたま買っていたものだ。
思わぬところで役に立った。

「どうですか、何か違うところは、ありますか?」

今まで黙っていたほうの警察官が、今度は撫でるような声で言う。

無理心中は否定しない。
童磨の前では、死にたくないと思ってしまう自分が恐ろしかったのも、
殺そうとする童磨に殺されてなるものかと思ったのも、どちらも事実だ。

『…家を捜索してほしい』

「え?」

『凶器が残っているはず』

私の言葉に、警察官たちがざわめいた。

『あの男は、人殺しです』

―――そこから、一気に捜査は進展した。

私の家からは、被害者の血液と童磨の指紋がべっとりとついた凶器が発見され、5人目の被害者の家に残っていた下足痕と童磨の靴のそれが一致した。
世間を震撼させた連続殺人犯は、隠れ蓑にしていた女の家で毒物を飲まされ意識不明。
女は容疑者に脅迫され、正常な判断力を喪ったまま、凶行を終わらせるために無理心中を図った。
…という煽情的なストーリーが瞬く間に席捲した。

私が被害者か、共犯者か、はたまた犯人殺しの加害者かは、時と場合と報道サイドのうまみによって違っていたけれど。

結局、2か月たっても童磨の意識は戻らず、私は退院して、会社には戻ることなく実家に帰された。
あの時助けてくれた嘴平君とも一度も顔を合わせることなく、それきりになった。
転がり落ちるような数か月間だった。


***

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ゆん - 性癖ドストライクで死にました← (2021年8月21日 13時) (レス) id: f3622d769a (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - つるかめさん» 恐縮です!ありがとうございます!こんな趣味全開の書き物楽しんでもらえたなら嬉しいです。お星様連打してくれる人一番好き (2020年4月26日 18時) (レス) id: f96b77b227 (このIDを非表示/違反報告)
つるかめ(プロフ) - こんなに一番右のお星さま連打したのは初めてです…。言葉選びといい世界観といいめちゃくちゃ好きでした!完結おめでとうございます!素敵な小説をありがとうございました!! (2020年4月26日 18時) (レス) id: 21a20e72bc (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - まほろさん» これが性癖のど真ん中…!この変態さんめ!コメントありがとうございます、頑張って書きます!! (2020年4月25日 15時) (レス) id: f96b77b227 (このIDを非表示/違反報告)
まほろ(プロフ) - 性癖のど真ん中を貫かれました。感情を持てあましすぎて読みながら踊り狂ってます (2020年4月25日 3時) (レス) id: 83522f25c5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:イトカワ | 作成日時:2020年4月15日 1時

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