鬼舞辻無惨(リク) ページ5
◇
「わーーッ!!」
屋敷に響く声に、軒先で羽を休めていた蝙蝠たちが慌てて飛び立つ。
「やめなさい!!」
屋敷のあるじ――鬼の始祖こと鬼舞辻無惨が、いつも冷徹非常な彼が、なぜ今夜にかぎってこれほどまでに騒ぎ立てているのかというと、それは彼の前に転がる、腹を裂かれ臓腑を夜の猛禽に突かせている女のせいだ。
「死ぬ」
そして女ははっきりとした口調で言った。
「死なぬ!」
鬼舞辻無惨は、くわ、と目をみひらき、あまりにも真剣に返した。死なぬかあ〜、と女は言って、言うなり裂けた腹がみしみしとつながって、女をついばんでいた猛禽は今、女のこぶしの中で砕かれた。ぽたぽたと血が落ちる。二羽の猛禽はおにぎりの如く丸められて、そして女の口に収まった。
「鬼なのでどうやら死なずに済んだ」
「驚くからやめろといつも言っているだろう」
「はて、死なぬと分かっているのになぜ驚くのでしょう」
「お前の死んだフリは心臓に悪い」
「ははあ、さては私にぞっこんですね」
女が起き上がると、鬼舞辻無惨は慌てて自身の着ている上着を女にかぶせた。猛禽についばまれたせいで、上半身があらわになっている。
「肌を出すんじゃない!」
素直に袖を通しながら、しかし女は顔をしかめたかと思うと、べっ、と口から猛禽を吐き出した。まずい。他のものを食べたい。それを聞くなり、鬼舞辻無惨は大声で部下を呼んだ。
「猗窩座!!」
「はい!!!」
呼ばれた猗窩座は、大急ぎで屋敷を駆け、鬼舞辻無惨の居室へ駆け込む。呼ばれた声より大きな声で返事をすること、2秒以内に馳せ参じること、叶わなければ叱責、あるいは鬼舞辻無惨の機嫌次第では手足を捥がれる。
「…なぜ全裸なのだ」
「入浴中でしたもので」
「それは失礼した」
「いえ」
それで、ご用は、と猗窩座は目線を下に落としたまま問う。
「Aが腹をすかしている。すぐに気に入るものを連れてこい」
「御意。それで、どのような」
「若くて顔のいい女の子がいい」
およそ抑揚のない声で、女は応えた。鬼舞辻無惨の喋ってる間に割り込むのは、通常、すぐにでも首を刎ねられてしかるべき所業。だが女は、鬼舞辻無惨の机に腰掛けて足をぶらぶらさせながら、「はやくして〜」と追い打ちをかけた。
「――御意」
当然断る選択肢などないので、猗窩座はすばやく頷いた。あの女、俺が女を殺したがらないのを知っていて、いつも俺に女を攫ってこさせる。悪趣味で、実に不快なやつだ。
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桜(プロフ) - 言葉のセンスが凄く好きです!!無理せず更新頑張って下さい! (2020年6月26日 23時) (レス) id: 05ec690416 (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - 星猫さん» どういう意図の質問か計りかねるので答えるのが難しいですが、知ってるアニメは、いろいろです…笑 (2020年6月23日 19時) (レス) id: 100d291aa9 (このIDを非表示/違反報告)
星猫 - 知ってるアニメは何ですか? (2020年6月23日 18時) (レス) id: e8084d140d (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - マリイさん» あいわかりました〜方向性がご希望とズレてたらスミマセン・・・ (2020年6月23日 17時) (レス) id: 218c4f48c9 (このIDを非表示/違反報告)
マリイ - リクで無惨様が夢主を溺愛してる話と無惨様が夢主の信者みたいになって夢主の言う事だけは聞く話見たいです 無惨様は少量の血を飲むだけで良い日光克服してる設定で 2つ別で (2020年6月23日 14時) (携帯から) (レス) id: 82a6cba0ff (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イトカワ | 作成日時:2020年6月23日 0時