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「カナエ先生ってプライベートでもあの喋りかたなの?」
私は懲りずに喋る。カナエ先生は、昔のお嬢さんみたいなおっとりした話し方をするのだ。
「……あのな」
ほんの少し、苛立ちのようなものが混じった。
「やる気ねェなら、明日にするか?」
「…ごめんなさい」
次は本当に怒られる。私はそのぎりぎりを悟って、雑念を追い出した。かりかりと課題にペンを滑らせる。腕がまとう汗のせいで、プリントがほんのすこしやわらかくなってしまっている。暑い。じわ、と額に汗がにじむのが分かる。
ようやく課題を終えて、私は伸びをし、先生は見かけによらない丁寧なしぐさでプリントの束をまとめた。やりゃァできるじゃねえか、と口角を上げて笑う顔を、ずるい、と思う。
「先生、ごめんなさい」
本当は、逃げていればそのうち先生にマンツーマンの補習を受けられると踏んでわざと逃げてたの。先生の夏休みを一日潰して、ごめんなさい。そんな気持ちで言った言葉を、先生はどういうふうに取ったのか、ほんの少し困ったように目線をずらし、鼻を鳴らした。
「別に雑談が悪いわけじゃねェよ」
「ただ――恋愛相談はやめろ。いいかァ」
そしていたずらっぽく笑う。
「しかし、高校生ってのはいっぱしに大人みてえな顔してるくせに、教師にとっての世界が学校だけだと思ってるのが、ほほえましいなァ」
大きな斧を振り落とすように。岩に砕かれるように。
「えっ」
「先生、もしかして、カナエ先生じゃない人と付き合ってるの」
「ねえ、先生ってば!」
不死川先生は、さあなァ、と言いながら職員室へ消えていく。私は呆けてそこに立つ。
――なんか、カナエ先生と付き合ってるよりショックかもしれない。だって私と全然関係ないところの、知りえないところの関係ってことでしょ?
「…カヤの外じゃん」
蝉がうるさく鳴いている。そんなに鳴いて、死んでもしらないぞ、と思う。
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桜(プロフ) - 言葉のセンスが凄く好きです!!無理せず更新頑張って下さい! (2020年6月26日 23時) (レス) id: 05ec690416 (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - 星猫さん» どういう意図の質問か計りかねるので答えるのが難しいですが、知ってるアニメは、いろいろです…笑 (2020年6月23日 19時) (レス) id: 100d291aa9 (このIDを非表示/違反報告)
星猫 - 知ってるアニメは何ですか? (2020年6月23日 18時) (レス) id: e8084d140d (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - マリイさん» あいわかりました〜方向性がご希望とズレてたらスミマセン・・・ (2020年6月23日 17時) (レス) id: 218c4f48c9 (このIDを非表示/違反報告)
マリイ - リクで無惨様が夢主を溺愛してる話と無惨様が夢主の信者みたいになって夢主の言う事だけは聞く話見たいです 無惨様は少量の血を飲むだけで良い日光克服してる設定で 2つ別で (2020年6月23日 14時) (携帯から) (レス) id: 82a6cba0ff (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イトカワ | 作成日時:2020年6月23日 0時