［完］黒死牟邸に居候してます (ページ43)

今日:1 hit、昨日:4 hit、合計:145,063 hit

字は読めない② ページ43

＊＊＊

1枚描き終わって、2枚目、3枚目、と描いていくうちに、私はそのあたりに散らばっている書き損じの多くが、同じような文言を連ねたものであることに気づく。
内容は読めないけれど、連なっている文字が似通っている。

『あのー、なんでこの紙、ちょっとだけ違うだけの同じ文章たくさん書いてるの』

「…それが推敲するということだからだ。納得がいかないから何度でも書き直すのだ」

すいこう、が何かはわからなかったけれど、まあ些細に思える違いがこの鬼にとっては大違いなのだろう、私はふーんと相槌を打った。

『私の知ってる強い鬼も、何が違うのかわからないところにこだわってたな～』

居合をしては首をかしげる黒死牟さんや、同じような正拳突きを繰り返す猗窩座さんを思い出しながら呟く。
はあ、はやく黒死牟さん家に帰って色付きのお日様の絵を描いて見せたい。

「その道を究めようとしている者にしか分からぬ極小の差というものがあるのだ。
　殊、貴様のような雑魚鬼にはわからぬものが」

『ふーん。がんばんなさいよ』

「…次に偉そうな口をきいてみろ。蹴りだしてやる」

＊＊＊

その鬼は、響凱と名乗った。
なるほど、凱が響く、えらく大仰な名前だから、あのお方のお気に入りなのだろう。

『私は、雑草のようなみそっかすという意味でA草です！』

「似合いだな」

『キー！』

私は鬼の背中のあたりをポコンと叩く。
着物の下からやけに軽妙な音がした。
ポコン、ポコン、と私は繰り返し叩く。
そのたびに、部屋がぐるぐると廻る。
私は鬼の背中にしがみついて、キャハハと笑う。そして何度目かの回転で手を離して、部屋の中央にぷかぷかと浮く。

「なんだ貴様、浮けるのか」

『A草の草は根なし浮草の草～』

天地がひっくり返ったまま、私はさかさまに浮いている。
鬼はそんな私を見上げている。

『いやあ、最高の血鬼術だ、黒死牟さんもこれが使えるといいのに』

「…小生の血鬼術は最高か」

『音もいいね！ポコン！あの琵琶の鬼とバンド組んであのお方が酔ってゲロ吐くプログレなやつやろう、ダンスフロアはぐるぐる廻るよ』

ポン、と、私が叩くのとは比べものにならない冴えた音がして、ストンと部屋の天地が戻った。
その瞬間、体中の血がざーっと足へ降りて、視界が真っ白になった。

『…ウプ』

「―――やめろ！！ここで吐くんじゃな―――」

＊＊＊