［完］黒死牟邸に居候してます (ページ23)

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透明になる ② ページ23

「……A草……。
そんなところで……なんのつもりだ……。」

さっきまでは確かにだれもいなかった居室の中央に、音もなく黒死牟さんが立っていた。
琵琶の鬼の血鬼術だろうか。
黒死牟さんは、珍しくこちらをちゃんと向いて、「隠れている……つもりか……。」と続ける。

途端に体がずんと重くなり、べしゃっ、と床に落ちる。
私はそのままぬるぬると這って黒死牟さんに近づくと、足先からゆっくりまとわりつくように登っていく。
黒死牟さんはじっと動かないでいる。
いつのまにか私は透明で大きな蛇になり、黒死牟さんの胴体をゆるく締め上げるようにして、巻きついている。
そして、そのまま背から腹から、その薄い薄い透明の膜を黒死牟さんの膚に合わせると、にゅるっと侵入した。
細長くなっているせいで、侵入にかかる時間がいつもより長い。
足の先(たぶん)までつるんと侵入できたときには、黒死牟さんも珍しく汗を流し、ふーっ、ふーっ、と深い呼吸を繰り返していた。

入るだけでこれでは、細長いまま、にゅるにゅる泳いだら死なせてしまうかも。

私は細長かった体を黒死牟さんの中で丸めると、おとなしい丸い形にして泳ぐことにした。
丸める瞬間こそ黒死牟さんの気持ちよさが決壊寸前に達したけれど、丸になってからは落ち着いた。
黒死牟さんは膝をついてしまったが、私はもう少し泳いでいないと戻れないと思い、少し我慢をしてもらうことにする。

丸はとにかく予測がしやすい。
ぽよんぽよんと跳ね返る瞬間が一番気持ちいいのがわかっているので、快感の波に備えることができる。
ほかの形にあるような、例えば不規則に臓腑をなぞる驚かしがないのだ。
だから長時間の一体化が必要な時はいつも、私は丸い形になる。
あともう少し……と思ったが、黒死牟さんがいよいよ限界だと訴えるので、堪えてするんと脱いだ。

私が出てくるのに合わせて、横向きに倒れてしまった顔を覗き込む。

『黒死牟さん、よく私があそこに挟まっていると、わかりましたねえ。』

「……。」

『見つけてもらえなかったら、今頃お星様ですよ。』

「……。」

『黒死牟さん、おかえりなさいませ。』

「……ああ。」

つんと黒死牟さんの顔を触ると、濃い脂汗でぬるっとした。