3話 ページ3
しばらく、杏寿郎さんが戻らない日が続いている。
私はこんな広い屋敷に一人で残され、手慰みに編み物を始めたが、どうも没頭できずにいる。
母からは、生活の無事を尋ねる文が届いたが、無難な内容を書いて返した。
「はあ〜、暇だ……。」
私は、そのままコテンと横に倒れる。
日当たりのいい縁側だ。こんないい屋敷に、たったひとりぼっち。
ガラッ
私は、弾かれるように起き上がる。
『杏寿郎さん!』
玄関まで迎えに出て、ひっ、と細く悲鳴をあげた。
顔中血にまみれて、肌にささるほどのひりひりした空気を纏う杏寿郎さんが立っていた。
「……すまない、しばらく帰らずに。」
これまで聞いたことのない氷のような声に、私は何も返せず、無言で羽織を受け取ろうとしたが、その手は弾かれた。
「一人にしてくれ。」
血に汚れた玄関に、私は一人残された。さっきまで、日の当たる縁側であたためていた体が、いちどきに冷える。
ーーーこれが、杏寿郎さんの責務。
湯殿のがらり戸が乱暴に開かれる音がした。
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やも - 冨岡夢の作品を読んでこちらも拝見させてもらいました。やっぱり文章が綺麗に洗練されていてとても好きです!素敵な作品ありがとうございました。 (2020年5月7日 14時) (レス) id: be623916d5 (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - Rさんさん» コメントありがとうございます〜!変な文章どころかありがたい文章です…今のところ続きは書いてなうのですが、書くことがあればこの小説にリンクでも貼ろうかなと思ってます! (2020年4月15日 21時) (レス) id: 218c4f48c9 (このIDを非表示/違反報告)
Rさん - 完結おめでとうございます!コメントするの初めてなのですが変な文章になってないでしょうか?とても感動しました!続きなどあれば是非教えて下さい!素敵な時間ありがとうございました (2020年4月15日 14時) (レス) id: f96fb724ca (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - 炎さん» 一気読みできるテンポを狙って書いていたので、コメントうれしいです、励みになります!読んでいただいてありがとうございました! (2020年3月30日 15時) (レス) id: f96b77b227 (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - ss好きの923chanさん» ありがとうございますー!読んでいただけて嬉しいです。また思いつけば短編でも書こうかなとは思ってます! (2020年3月30日 15時) (レス) id: f96b77b227 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イトカワ | 作成日時:2020年3月27日 23時