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晴れてメル友になった2人は、どれだけ任務が忙しくても、話すことがなくても、毎日メールのやり取りだけは欠かさなかった。
しかし文字から入った手前、直接話すのはどこかむず痒い。メール上では素直に話せるのに、目の前に五条が現れると恥ずかしくなってAは目すら逸らしてしまう。
「あっ……」
「あ?」
お手洗いへと行っていたAが教室に戻ると、何故か硝子も夏油もそこにはいなくて、完全にだらけきった五条と2人きりになってしまう。つい声を漏らしてしまったAであるが、ここから踵を返して出ていくのはあまりに不自然だった。たらたらと流れる汗。誤魔化そうと必死に言葉を探すが、頭に思い浮かぶ言葉は一つもなかった。
「あー!そういえば先生に呼ばれてたなあ!!行かないと!!」
…だめだ、この重たい空気には耐えられない。そう思ってしまったAは、明らかに違和感のある言い回しで教室に背中を向けた。くるりと回って廊下へ出ようとすると、ぱしりと背後で音が鳴る。自身の手首から伝わる熱が、腕を伝って心臓をどくどくと稼働させる。
ちらりと振り返ると、Aを覆うほどの背丈を持つ彼が、切なげな表情で彼女を見つめていた。
「なあ、何で避けんの」
「っ……」
ほんの少し掠れたその甘い声は、彼女の耳元からわずか10センチのところで紡がれて、Aはびくりと身体を震わせる。吐息までも感知してしまい、彼女は羞恥に押しやられてしまった。
スローモーションのようにゆっくりと離れていく五条のサングラスから透けた青い目が、Aを掴んで離さない。全てを射抜くようなその眼差しは、最も簡単に彼女の本音を零させた。
「……ごめん、私っ……五条くんと直接話そうとすると、緊張しちゃって!メールでは普通に話せるのに…」
顔を赤く染めて泣きそうな表情でそう零したAを見て、ごくりと五条の喉が鳴る。自分を避ける理由は、何とも可愛らしいものだった。
自分が彼女に興奮してしまっていることを隠すため、そっぽを向いた五条は唇を尖らせてもごもごとその口を動かした。
「緊張とかばっかみてえ。…………ふ、普通に話せよ」
「う、うん……」
とくん。何だか嫌な音がしたと、Aは直感的に感じた。
心臓あたりが熱くなったこの感覚は、絶対に自分の勘違いだ。今の彼女にできることは、そう自分に念じ込むことだけだった。
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叶華(プロフ) - 更新ありがとうございます。とてもとても嬉しいです。これからも応援しております (2023年4月29日 2時) (レス) @page28 id: 2f3b00e51a (このIDを非表示/違反報告)
プスメラウィッチ - 初めまして、この小説は五条悟オチですか?できれば五条悟オチでお願い出来ますか?続き頑張って下さい。応援してます。 (2022年7月5日 14時) (レス) id: 6c0ddf792c (このIDを非表示/違反報告)
chi(プロフ) - めちゃくちゃ面白いのにここで終わりなんですね(T^T)続きが気になります!!またの更新楽しみにしています (2022年6月10日 13時) (レス) id: d0808ae4c9 (このIDを非表示/違反報告)
chi(プロフ) - めちゃくちゃ面白いのにここで終わりなんですね(T^T)続きが気になります!!またの更新楽しみにしています (2022年6月10日 13時) (レス) id: d0808ae4c9 (このIDを非表示/違反報告)
しぐれ - 面白いですね!!! (2021年7月16日 21時) (レス) id: 165d0fbcd6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぐー | 作成日時:2021年5月18日 1時