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「病院の先生が言うには、原因不明__というより、原因なんかないんじゃないかって。他人の身体をあそこまで屈辱的にいじくり回して、その結論はお寒いよね。元から、それがそうであるように、そうであったとしかいえない__なんて」
相川は自嘲のように言う。
「あまりに馬鹿馬鹿しいと思わない? 僕__中学校までは、普通の、格好いい男の子だったのに」
「……………」
手前で手前のことを格好いいと言い放った事実はひとまず置いておくとして。
病院に通っているのは、本当だったか。
遅刻、早退、欠席。
それに__保健の先生。
どんな気分だったのだろう、と、考えてみる。
私のように__私のように、ほんの短い、二週間程度の春休みの間ではなく__高校になってから、ずっとそうだった、というのは。
何を諦め。
何を捨てるのに。
十分な時間だったのだろう。
「同情してくれるの? お優しいんだね」
相川は、私の心中を読んだのか、吐き捨てるようにそう言った。汚らわしいとでも、言わんばかりに。
「でも僕、優しさなんて欲しくないの」
「…………」
「僕が欲しいのは沈黙と無関心だけ。持っているのならくれないかな? ニキビもない折角のほっぺた、大事にしたいでしょう?」
相川は。
そこで、微笑んだ。
「沈黙と無関心を約束してくれるのなら、二回、頷いてね、阿良々木さん。それ以外の動作は停止でさえ、敵対行為と看做して即座に攻撃に移るよ」
一片の迷いもない言葉だった。
私は、選択の余地なく、頷く。
二回、頷いてみせる。
「そう」
相川はそれを見て__安心したようだった。
選択の余地のない、取引とも協定ともいえない要求だったにもかかわらず__私がそれに素直に応じたことに、相川は、安心、したようだった。
「ありがとう」
そう言って、まずはカッターナイフを、私の左頬内側の肉から離し、ゆっくりと、慎重というよりは緩慢な動作で、抜く。その際に、誤って口腔を傷つけないようにと、配慮の感じられる手つきだった。
抜いたカッターの、刃を仕舞う。
きちきちきちきち、と。
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がむしろ(プロフ) - コメント失礼します!とても面白く、原作の化物語の通りに書かれていて、読んでいてとても楽しかったです! (2022年4月13日 23時) (レス) @page1 id: b2402acd1c (このIDを非表示/違反報告)
灰猫(プロフ) - ヒマリンさん» ヒマリンさんコメントありがとうございます!わざわざこの作品を見つけてくださり、そう言ってもらえて恐悦至極です!これからも原作通りに進められるよう頑張ります!! (2021年8月3日 19時) (レス) id: 75a262f2fa (このIDを非表示/違反報告)
ヒマリン - 本当に化物語の通りでした。 すごいです。 (2021年1月7日 10時) (レス) id: 88fe224ab8 (このIDを非表示/違反報告)
灰猫(プロフ) - うたねこさん» うたねこさん初めまして、感想ありがとうございます!どちらも好きな方がいらっしゃるとは…!? 緩やかですが楽しみにしていただけているのなら光栄です(*'∀`*) (2020年3月22日 22時) (レス) id: 06fe930ba8 (このIDを非表示/違反報告)
うたねこ(プロフ) - はじめまして!物語シリーズもまふさんも好きなのでめっちゃ嬉しいです。お話もこれからすごく楽しみです! (2020年3月22日 17時) (レス) id: f217387575 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:灰猫 | 作成日時:2020年3月20日 4時