【歌い手】Congratulations on your graduation【大型コラボ】

【3/16】『綺麗ですね』@ゆる五郎 ページ17

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『ご卒業おめでとうございます、先輩』


彼女はそういうと笑った。
表情はいつも通り、静かに微笑むように。

結局ボタンは全て引き千切られて彼女の手には渡らない。
『そんなの気にしないで下さい、ボタンなんて大丈夫ですよ』彼女はそう言った。これも想定内だった。

―――…本当に嘘つきだ。



歌手になる、そんな夢を追い続ける俺は明日上京する。
そのことは彼女に一言たりとも言っていないというのに全て察された。

空気が澄んでいて、海が蒼くて、山が連なっていて。
自然に囲まれた此処から、

隣で何も言わず笑うAから、"サヨナラ"する。


『そらる先輩、目が赤いですね』

「…お前は本当にいつも通りだな」

『――…

桜が、綺麗ですね』


話の逸らし方はへたくそだった。
桜なんてもう、散っているのに。

でも、彼女は本当に綺麗というように桜の木を見ていた。



「A」

『はい』

「――…好きだった、ずっと」

『はい、私もです』




「―――――…じゃあな」

『…はい、"さよなら"。』



Aの言葉を聞くと、俺は背中を向けて歩き出した。
きっと、彼女は泣きもせずに俺の背中をただただ見詰めていることだろう。

引き止めないことくらい、分かっていた。
引き止めて欲しかった。

彼女が涙を流さないなんて、分かっていた。
それでも、縋るように泣いてほしかった。


―――それが実現しないことくらい、ずっとずっと知っていたのに。


*




「――…桜より、空の方が綺麗かな」




―――――…ほら、


見ている景色は全く違うのだから。

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