【3/7】淡く仄かな恋心 前編＠さやえんどう ページ1
初恋の人は、今年卒業してしまう、ひとつ上の先輩だった。
彼女は、卒業式が終わった後に挨拶回りをしていたらしく。
俺のところにも、やって来た。
告白する勇気も出ない、俺のところにも。
『…天月君、私クラスでパーティーあるみたいだから…そろそろ』
桜が舞う、校舎裏。
ひととおり俺と話し終わったA先輩が目を細めてそう言う。
嗚呼。
眩しい、なぁ。
いつもそうだった。
先輩は眩しくて、憧れで。
「…分かりました」
このまま、頷けばいい。
頷いて、笑顔で、
“今までありがとうございました”って。
いい後輩で―…
―――…ほんとに、いい後輩のままでいいのか？
心のどこかがそう囁いた。
ここで、動かなければ。
ここで、告白しなければ。
『じゃあ、2年間ありがとね、楽しかった』
先輩が背を向ける。
恋か愛かも、そう名前がつくかもわからない。
でも、それでも、
譲れないものくらい。
このままじゃ、きっと俺、ずっと後悔する。
―――…嫌だ。
心の隅にうずくまっていたはずの何かが、叫んだ。
「ッ…待ってください！」
思わず絞り出した声。
踏み出した足。
行き場を無くした筈の手は、A先輩の手首を掴んだ。
驚いたような彼女の表情。
『…どうしたの？天月くん』
首を傾げてそう言う。
俺は、息を吸って。
「好き、です！A先輩のこと、ずっとずっと好きで、俺、でも言えなくて、っそれでも言いたくて、…えっと」
けれど、口から飛び出たのは男らしいとは縁遠い言葉で。
ああ、もう、言葉も顔も何もかも滅茶苦茶だ。
思い描いていた、かっこいい自分像にはまるで届かなくて。
これじゃ駄目じゃないか。
彼女は、A先輩とはもう滅多に会えなくなるというのに。
もしかしたら、これから一生会えない相手になるかもしれないというのに。
そう、思ったときだった。
『っ…もぉ…』
へたり。
制服のスカートをひらめかせ、A先輩がその場にへたり込む。
右手は俺に掴まれているので、自由な左手で自らの顔を覆って。
ちらりと髪の隙間から見えた耳は、分かりやすいほどに真紅に染まっていた。
「せ、せんぱっ…」
『私も』
俺の言葉をさえぎるように、A先輩が口を開く。
すうー、と深呼吸をしたと思ったら、彼女は顔をあげた。
その瞳は潤んでいた。
『私も、天月くんのことが好きです』
「え…！」
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作者名：graduation x他9人 | 作者ホームページ：ありません
作成日時：2014年2月25日 16時
