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トン、トンと軽い足音を立てながら、黒板前の段差を上がったのは天音だった。
彼が目当てとするのは教卓。担任の衛士村先生が今年一年使い倒していた代物だ。先生が机の中から、その収容量を明らかに超えるような実験器具やら何やらを取り出していた日々が懐かしく思える。

「それじゃ、授業を始めるで〜……なんてな」

いつかやってみたいと思いつつも、ついに今日という卒業の日までできなかった先生の真似事。思わぬ形で念願が叶った天音だが、この場にいる他の五人はそれぞれの調べ物に夢中だ。
少し声を抑え気味だったこともあるが、思ったよりも良い反応が得られず、天音はがくりと肩を落とした。

それはさておき。あれだけいろいろな物が大量に詰まっていた教卓だから、恐らく何かしらは入っているだろう。天音は躊躇しながらも手を突っ込んだ。
すると出るわ出るわ、割れた試験管を継ぎ接ぎして作った『ロンゲスト試験管』だの、諸々の調整により周波数を遥かに上回る速度で打点するようになった『超絶技巧記録タイマー』だの、衛士村先生の手によって冒涜的な改造を施された実験器具(ガラクタ)の数々が教卓の上にずらりと並んでいく。

「うわわ、机の中ぐっちゃぐちゃやな……さすが衛士村せんせ」

少しばかり呆れながらも、さらに教卓の中を探っていく天音。やがて指先に何かが掠めたのに気がつくと、慎重にそれを摘んで引っ張り出した。
出てきたのはしわくちゃに丸まった一枚の紙だった。破かないようそっと広げると、そこには不可解な文字列が印刷されている。



天音は首を傾げながらも、ガラクタの中から発掘された“戦利品”を手に仲間の元へと戻っていった。



縦に四段、横に十列。生徒三十三人のクラスには少し大きなロッカーを、陽奈は律儀に一つ一つ覗き込んでいた。

「う〜ん、何かあると思ったんだけどなぁ……」

これだけ大きければ何か手がかりがあるかもしれない――そんな彼女の思惑も虚しく、ロッカーには何一つ物が入っていなかった。昨日まで自分の分も含めて生徒たちの荷物が入っていたからか、空のロッカーを見ていると物寂しさを感じさせる。

「……私達、本当に卒業したんだなぁ」

常日頃笑顔を心がけている彼女だが、今日ばかりは少し悲壮感が滲んでいる。
僅かな切なさは胸の奥に押し込めて、陽奈はロッカーの調査を終えることにした。

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作者名:春乃四葉 | 作成日時:2024年3月6日 19時

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