◇ ページ15
彼らが手分けして教室内を調べ始める中、まず雪欺が向かったのは窓際だった。
この部屋は三階にあるため、もちろん窓から外に出ることは不可能である。それでも窓が開きさえすれば、外の空気を吸うことで少しは落ち着きを取り戻せるだろうと――そう思ったのだが。
「？……何だ、何かがおかしい……」
窓に近づくと、雪欺は一つの異変に気がついた。
晴れているのだ。窓の向こうでは太陽が出ているようで、外から初春の暖かな光が差している。しかし、雪欺の記憶では今日はあいにくの曇天で、陽光が差すはずなどないのに、だ。
まさか晴れているはずは……雪欺は目を凝らすが、外の景色が何だか妙にぼやけていてよく見えない。
疑問が尽きない雪欺だったが、ふと当初の目的を思い出すと新鮮な空気を求めて窓に手を掛けた。
しかし、引こうとした彼の手はぐっと押し留められてしまう。早い話、窓が開かないのだ。鍵はきちんと開錠されているし、何かがつかえているような感覚も無い。それなのに、どんなに力を込めても窓はぴくりとも動かなかった。
自分はここまで非力だっただろうか……と少しショックを受けながらも、雪欺は窓を開けることを諦め五人の元へ戻ることにした。
一方、窓と並んでもう一つの教室外との境界線である扉に向かったのは伊織だった。
先程麻知が開けようとして失敗したのは後ろの扉だったから、前の扉なら問題なく開くかもしれない。いや、きっと開くに違いない。長年語り継がれている“噂”が、まさか自分たちの身に降りかかるはずもないのだ。
「ぐっ、ふぬぬぬぬ……!!」
どこか楽観的な態度で出入り口前に立った伊織だったが、そんな希望的観測はあっけなく打ち砕かれた。
改めて開扉に挑むが、開きそうだという気配すら感じられない。持てる力を出し切っているはずなのに、扉はうんともすんとも言わなかった。
「まさか…………ホンマに……？」
伊織は扉をこじ開けようとする手を止めた。若草色の瞳が当惑に揺れている。
やはり自分たちは閉じ込められてしまったのだ。あの“噂”がまさか本当だったなんて。――動揺を隠せないのは相変わらずだが、深呼吸しながら少しずつ考えを整理していく。
……“噂”がウチの聞いた通りだとしたら、まずは教室を出なアカンな。
とにかく今すべきことを確認すると、伊織は幼馴染みたちのいる教室中央へと振り返った。
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作者名：春乃四葉 | 作成日時：2024年3月6日 19時
