◇ ページ11
――あ、やっちゃった。
写真撮影を受けながら、陽奈はそう思った。
というのも、シャッターが切れたまさにその瞬間、彼女はあろうことか瞬きをしてしまったのだ。大切な思い出の写真に半目で映るなんて最悪だ、撮り直してもらわないと――そんな思考が、目を瞑った陽奈の脳裏を走馬灯的に駆け巡る。
陽奈が目を開けると、彼女のよく知る桔梗色の瞳と視線がかち合った。
「――しのの？」
なぜだか頭が上手く回らない陽奈だが、そんな中でも目の前の彼女の名前がするりと出てくるのはやはり幼馴染みたる所以だろうか。“しのの”こと紫乃はぼんやりと自身を眺める陽奈を見つめ返すと「……やっと起きましたか」とどこかため息混じりに呟く。
その時「あ、そっち起きたん？」と視界の端から伊織が顔を出した。
「なんで……？ていうか、ここは……？」
だんだんと頭は覚醒してきたものの、それに反して陽奈の思考は疑問ばかり生み出す。
校門前にいたはずの彼女らだったが、気がつくとそこは学校の教室らしき場所。写真撮影のために横並びの位置にいたはずの紫乃はなぜか陽奈の目の前の席に座っていて、伊織は近くをふらりと立ち歩いている。
そして陽奈自身はどうやら机に突っ伏して眠っていたらしい。頭にもやが掛かっているようなこの感覚は、確かに眠りから覚めた直後のそれによく似ていた。
「……ねぇ二人とも、ここってさ」
馴染みのある風景から、陽奈はすぐに自分がいる場所の見当がついた。自身の見解を伝えれば、紫乃も伊織も軽く頷く。
間違いない、ここは彼女らが今日まで通い詰めていた三年二組の教室である。だが、一年間を過ごしたこの場所からはつい先程旅立ったはずだ。
――それなのに一体どうして、私達はここに？
「あっれぇ……ここはどこ、俺は誰？」
ふと、右前方からそんな声が聞こえる。どこか艶っぽい声で定番のボケを披露したのは天音だ。
辺りを見渡せば、陽奈の席から一つ飛ばして真左に座る麻知も、同じように目を覚ましたところだった。一方でその前方の席の雪欺は未だすやすやと眠りこけている。
「あなたは馬酔木天音、私達の幼馴染みですわ。そしてここは……あら、一体どこかしら？」
天音のボケをあしらおうとして、麻知は異変に気がついたようだ。椅子から立ち上がると不思議そうに辺りを見回している。
一体自分たちの身に何が起こったのか――反応は様々だが、一足先に目覚めていた伊織や紫乃も含め、誰一人として飲み込めていない様子だった。
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作者名：春乃四葉 | 作成日時：2024年3月6日 19時
