三月六日 ページ1
きつい西日はブロック塀と木々に遮られ、昨日の雨の影響からか湿っぽい空気が辺りを満たしている。
三年間を過ごした中学校の敷地内、決して良好な環境とは言えないこの場所に▓▓が座り込んでいた。
制服に土が付くのも意に介さず、地面に体育座りをする▓▓。爪の先が白くなるほどに力が籠もったその手には何やら小さな紙片が握られている。“いつメン秘密基地通行証”の文字が鉛筆書きされたそれは随分使い古されてきたようで、破れをセロハンテープで繕った跡が所々に見受けられた。
そんな通行証を呆然と眺めながら、▓▓は何やら物思いにふけっている。
……今日は三月六日。だから明日は――
そこで▓▓は急に顔を伏せた。必死に思考を止めようと、別のことを考えようとする。
だが、一度至ってしまった“答え”は▓▓の脳いっぱいに広がりその思考を完全に支配する。それはまるで現実から目を逸らさせまいとするかのようだ。
「――明日は、卒業式……」
観念したようにぽつりと発した声はどこまでも弱々しく、だが確かな苦みを持って▓▓の胸を突き刺した。
▓▓にとって“卒業”は義務教育の終幕だけではなく、十数年を共に過ごした幼馴染み――いつメンとの別れを意味する。彼らと笑い合っていても、どうしても“別れ”の二文字がちらついてしまい辛くなるから……普段はいつメンら級友と一緒にいることが多い▓▓がこうして独りでいるのも、それが最も大きなところだった。
幼馴染みたちと自分。六人で過ごす日常はいつも他愛ないものだった。だからこそ▓▓は、自分がとてもくだらなくて、それでいてとても愛おしい日々を永遠に繰り返しているように錯覚していた。そしてそれはきっと▓▓だけではない、他の幼馴染みたちにも言えることだろう。
だが現実はそう甘くない。たとえそれが何であろうと、永遠に続くものなどこの世にありはしないのだ。
今年いっぱいお世話になった教室に入るのも、担任の奇行に苦笑いするのも、――幼馴染みたちと同じ学校に通えるのも、明日が最後。……なら、その先は?
▓▓は幼馴染みたちのいない学校生活を想像するだけで、肺を握り潰されるような苦しみに襲われた。そんなこと、想像したくもなかった。
だが▓▓の想いもむなしく、もうすぐ今日という日が終わる。今日が終われば明日が来る。門出の時を迎えてしまう。
それでも、願わずにはいられなかった。
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作者名:春乃四葉 | 作成日時:2024年3月6日 19時