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クロのテスト期間中に散々暴れまわってから全く片付けていない棲家に血がぶちまけられている様を、怒りでぼんやりとしてしまっている頭で認識した。
 ああ、あの肉は明日実験に使おうと思っていた子供の足、あれはずっと経過を観察していた魔獣の破片だ。
 なんてもったいないことをしてしまったのだろうか。いらだちを解消するためだけに、尊い実験材料たちを犠牲にしてしまったことに、アドラメレクはほんの少しだけ後悔してみた。
 全く、たかだか人間なんて弱く搾取されるだけの生き物にイライラさせられるなんて。

(『アドラメレク』らしくない……)

 偉大なる悪魔であるアドラメレクには、矮小な存在にここまで心を乱される経験が初めてのもので、どうも新鮮だ。
 人間という生き物をこれまで何度も攫っては、好き勝手に実験を繰り返して弄んだり、逃げ出して魔界の摂理に蹂躙されるのを観賞したり、命が一瞬で散ってしまうのを惜しみながらも愛でる存在だった。丁度人間でいうところの季節に合わせて咲き誇る花のような存在だった。
 それなのに、今回攫ってきた人間の雌である『クロ』はどうだろうか。
 考えてみれば今回の人間とは随分と長い付き合いになっている。10年は経っているだろうか。おかげで人間の新しい遊び方を覚えてしまった、と次に攫う人間に行う実験を思い起こして少しだけ心が落ち着いた。

 次、次に人間を攫ってきたら、それの世話はクロにさせよう。そうすれば愚かにも優しい彼女はその人間に情が湧くだろう。もしかしたら雄の人間であれば交配させて子供を産ませることもできるかもしれない。いや、それとも幼い子供がいいだろうか。今まで実験を散々見せつけてきたが、特にあの子は小さく弱い生き物が虐げられるのがたまらなく辛いらしいから。きっと面白いことになるだろう。

「……あら?」

 そこまで思考を巡らせて、アドラメレクは気が付いた。

「なんで、私、クロのことばっかり考えて……」

 カタカタと手が震えていた。
 何故、想像した未来の中に『クロ』の姿が当たり前にあるのか。
 アドラメレクを裏切った人間なのに、何故。

「…………ふ、ふふ、」

 簡単な話だ。
 アドラメレクは執着しているのだ。あの些末で矮小で弱弱しく頭の悪い人間に!

「あは、ははははは!!!」

 悪魔として長く生きてきて、それは初めての感情だった。
 手が震えていたのは、生まれて初めて感じる感情への歓喜の心のためだった。

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ほるすたいんねこ(プロフ) - 海姫さん» コメントありがとうございます!楽しんでいただけているようでとても嬉しいです!!ゆっくりの更新ではありますが、お付き合いくださいませ。よろしくお願いします!! (2023年3月12日 11時) (レス) id: 4b2c935aae (このIDを非表示/違反報告)
海姫(プロフ) - めちゃくちゃ好みのお話です。表現方法も綺麗で楽しく読んでます。更新楽しみにしていますので、これからも頑張ってください! (2023年3月6日 0時) (レス) id: d925a11138 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ほるすたいん猫。 | 作成日時:2023年3月6日 0時

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