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「く、クロさん……?」
「……」
「どうしたの、立ち止まって……」
今までに見たことのないクロの行動に、バラムは狼狽えるだけだった。
ここまで来て疲れの限界が来てしまったのだろうか。それとも今更ながらに怖気づいてしまったのか。クロの表情からは何も読み取ることが出来ない。
「……バラムくん」
ふと、クロがバラムの名を呼んだ。
小さな声にも関わらず、バラムの耳にまっすぐに届く。
「____【動かないで】」
「ッ!?」
彼女の声が鼓膜を揺らした瞬間に、バラムの身体は硬直した。
なんだ、これは。クロの家系魔術か何かだろうか。いや、そうだとしても今ここでバラムに魔術をかける意味が分からなかった。
混乱するバラムを他所に、次にクロはバラムに近づいてきた。
(怖い顔……)
鬼気迫る顔がバラムに迫ってくる。ひどく恐ろしい顔をしているのに、目には涙の膜が今にもこぼれそうなくらい張っていて、バラムはその水をぬぐってやりたかった。
「……バラム、くん」
するり、と。
クロの腕がバラムの身体にまわった。無抵抗の身体に彼女の身体が密着する。
クロに抱きしめられていると、理解するのにそう時間はかからなかった。
布越しに伝わってくるクロの体温は子供らしく高めなのに、彼女の身体はカタカタと震えていた。
「く、ろ、さ……」
声をかけてあげたいのに、口がうまく回らない。
抱きしめ返してあげたいのに、体に力が入らない。
「ごめんね……」
彼女が顔を埋めている肩口がジワリと濡れた。バラムがその感覚を感じ取った瞬間だった。
__ドォォォォン……。
「!?」
「……」
バラムたちを囲む木々が、まるで鋭利な刃物で切られたような切り口で吹き飛んだのだ。
風圧で目が開けられず、思わず閉じてしまう。
「……あは、かわいぃ♡」
次に目が光を取り込んだ時、彼らの目の前には巨躯を揺らした女性がその場に立っていた。
ぞわりと背中が粟立つ。
バラムはこの感覚を、知っていた。経験したことがあった。
「はぁい、少年少女♡ 綺麗な感情ありがとぉ〜♡」
クロが逃げ出した元凶。
アドラメレク=シュトラが、バラムとクロの行く道をふさぐように立っていた。
彼女の笑顔はそれはそれは歪んでおり、目はギラギラと血走っている様に、バラムは音が出ない喉がひゅ、と鳴った気がした。
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ほるすたいんねこ(プロフ) - 海姫さん» コメントありがとうございます!楽しんでいただけているようでとても嬉しいです!!ゆっくりの更新ではありますが、お付き合いくださいませ。よろしくお願いします!! (2023年3月12日 11時) (レス) id: 4b2c935aae (このIDを非表示/違反報告)
海姫(プロフ) - めちゃくちゃ好みのお話です。表現方法も綺麗で楽しく読んでます。更新楽しみにしていますので、これからも頑張ってください! (2023年3月6日 0時) (レス) id: d925a11138 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほるすたいん猫。 | 作成日時:2023年3月6日 0時