72 ページ22
⚫︎⚫︎⚫︎
これは夢だ。
クロは直感的に理解した。アドラメレクに誘拐されてから久しく見ていなかった夢。それを今、見ている。
バビルスの廊下にクロはただ立っていた。
なぜクロが夢であると理解したのか。理由は簡単であった。
(だって、"入間くん"がいるから……)
青みがかった黒髪の少年が、バビルスの校内を歩いている。その隣には薄桃色の髪の青年と、黄緑色の元気な女学生が楽しそうに陣取っていた。
王の教室も開いてすらいないクロのいるバビルスではない世界であることは明白だった。
(楽しそう)
そんな3人の前に、一人の大人の悪魔がやってきた。
白い短髪で巨躯の悪魔だ。教師だろうか、アスモデウスが美しく頭を下げた。
クロからは背中しか見えないが、大きな体を折り曲げて小さな生徒たちの話を聞く姿を見る限り、きっと優しい教師なのだろう。
入間たちが良い教員に恵まれていることが、クロにとってとても喜ばしいことだった。人間界にいた頃の記憶が薄れるなかで、顔も名前も覚えている彼らはクロの小さな希望なのだ。
雑談を終えたのだろう。入間たちは楽しそうな表情のまま、教員に頭を下げてから、クロのいる方向に急いで向かってくる。
教室の移動でもあるのだろう。
学生らしい姿にクロは思わず微笑んだ。
その時だ。
先程まで入間たちと話しており、背中しか見えなかった教員が入間たちを見守るように振り返ったのだ。
そして、ひどく優しげな表情で子供たちに声をかけた。
『＿＿＿＿次の授業も頑張ってね』
(……え、)
夢だと言うのに、その部分だけ鮮明に聞き取ることができた。
聞き覚えのある声に、急に体が冷えてくる。
優しい低い声。クロは、これよりもほんの少しだけ若い声に聞き覚えがあった。
そして、その声に入間が応えた。
『はい！ ありがとうございます、【バラム先生】！』
入間の声でからの名前を聞いた瞬間、クロは今度こそ心臓が止まるかと錯覚した。
恐る恐る白髪の教員の顔を見る。
(……どうして、忘れてたんだろう)
クロの全身からゆるゆると力が抜けていく。
白い髪。
大きな体。
四肢は鱗に覆われており、およそ人間とは似つかない。
そして、極め付けは顔の半分を覆う金属のマスク。
幼い頃の怪我を隠すために、学生時代からずっと着用しているらしいそれに、クロはひどく見覚えがあった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 95人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ほるすたいんねこ(プロフ) - 海姫さん» コメントありがとうございます！楽しんでいただけているようでとても嬉しいです！！ゆっくりの更新ではありますが、お付き合いくださいませ。よろしくお願いします！！ (2023年3月12日 11時) (
レス) id: 4b2c935aae (このIDを非表示/違反報告)
海姫(プロフ) - めちゃくちゃ好みのお話です。表現方法も綺麗で楽しく読んでます。更新楽しみにしていますので、これからも頑張ってください！ (2023年3月6日 0時) (レス) id: d925a11138 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ほるすたいん猫。 | 作成日時：2023年3月6日 0時
