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「ねえクロさん」
情けなくも泣き続けるクロに、バラムが優しく声をかけた。マスクをしていないからか声が透き通って聞こえる。
少年から青年になりかけの、まだ透明感のある若く低い声にクロは耳を傾けた。
「学校で言ったでしょう。今、クロさんがここにいるのは、僕の欲に付き合ってもらってるんだって」
「バラムくん」
「僕はね、君と学校生活を続けたいんだ。他愛もない話もしたいし、オペラ先輩やカルエゴくんにも紹介したい。学校行事だって、優秀な君と乗り越えたい。厳しい悪魔学校を一緒に卒業したい」
「……」
ひどく優しい声だった。
はちみつがとろけるような甘さを含んだ大人っぽい声に、クロは思わず黙るしかなかった。
「ええと、そうだね、だから、つまり僕はクロさんのことがもっと知りたいんだと思う。時間をかけて、仲良くなりたいんだ」
「……うん」
「だから、気に病まないで」
「……ありがとう」
悪魔にしては優しすぎる少年。
精一杯の慰めの言葉をかけてくれるその気持ちに、クロは魔界で荒んでいた心が温かくなるのを感じていた。
バラムが当たり前にクロと一緒にいる未来を考えてくれるのが、心の底から嬉しい。
彼が手袋ごしに不器用に拭ってくれていた涙は、すっかり乾いていた。
「ねぇ、やっぱり向き合って休もうよ。クロさんが眠くなるまで話そう」
「……いいの?」
バラムの提案に、クロは驚いて体を起こしてしまった。
バラムとクロの視線の高さが会い、ここでクロは初めてまじまじとバラムの顔を見ることになった。
マスクをつけていたバラムの素顔。左の口元が大きく抉れており、悪魔らしい獰猛な牙が見えている。
きっと心無いことを言われたこともあるだろう。普段隠しているのだから、他人に見せるのだって多大な勇気が必要であることは、想像に難くない。
しかし、バラムはクロに対して困ったように笑って「クロさんなら、いいよ」と答えるだけだった。
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ほるすたいんねこ(プロフ) - 海姫さん» コメントありがとうございます!楽しんでいただけているようでとても嬉しいです!!ゆっくりの更新ではありますが、お付き合いくださいませ。よろしくお願いします!! (2023年3月12日 11時) (レス) id: 4b2c935aae (このIDを非表示/違反報告)
海姫(プロフ) - めちゃくちゃ好みのお話です。表現方法も綺麗で楽しく読んでます。更新楽しみにしていますので、これからも頑張ってください! (2023年3月6日 0時) (レス) id: d925a11138 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほるすたいん猫。 | 作成日時:2023年3月6日 0時