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取り外したマスクをぼんやりと見ていると、不意にクロが「ね、バラムくん」と声をかけてきた。
 クロもフードマントを外しているのだろう。いつもよりクリアに彼女の声が聞こえてきて、それも少しだけ恥ずかしかった。

「……なに?」
「あの、その、一言お礼を言いたくて……。休む直前に、疲れてるのに、ごめん、なさい……」
「……クロさん?」

 いつもよりも声が聞こえるからだろうか。
 彼女の声が少しだけ震えていることにバラムは気がついた。吐き出す息が湿っぽく濡れている。

「……こんなことに巻き込んでしまって、ごめんなさい。足手纏いで、ごめん。本当なら、きっとお家に帰ってる時間で、お父さんとかお母さんと一緒に過ごしてたよね……」
「クロさん、」
「いい年して、まだ力のない貴方に頼る自分が情けない。自分で自分を守れないことが許せなくて……」
「……うん」
「ダメだね、変なこと考えちゃう。わたし、こんなに穏やかに過ごせる夜が、魔界で初めてで……。いつも、他の子が痛めつけられている悲鳴とか、血の匂いとか、あの悪魔が建物を壊す音とか聞いててね……」
「うん……」
「ここは、静かで、何もなくて……。バラムくん以外居なくて」
「うん」

 バラムの背中から、すん、と鼻をすする小さな音が聞こえた。


「____どうしよう、すごい、怖い……」
「…………クロさん、」


 バラムは体を起こして、クロの方を向き、彼女の震える肩に手を置いた。
 自分の顔がマスクで覆われていないのも忘れて、クロに声をかけると、彼女はゆっくりとバラムの方を向いた。
 クロの顔は涙で濡れてしまっていた。
 その顔を優しく拭いながら、バラムは考える。

 今日の道中も彼女からほんの少しだけ話は聞いていた。
 どんな環境にいたのか、アドラメレクとはどんな悪魔なのか、どんなことをされたのか。詳細な情報ではないにしろ、その悲惨さは会話の端々から滲んでいた。

「静かなのが怖いのかな。それとも、知らない森の中だからかな」
「わかんない……」
「そっか」

 優しい彼女のことだから、バラムを巻き込んだことや、アドラメレクのもとに置いてきてしまった同じ境遇の者たちへの罪悪感が強いのだろう。
 バラムを映す黒い瞳が涙で揺れている。適当に切られて毛先の整っていない黒い髪が呼吸に合わせてさらりと重力に従うのを、バラムは彼女の涙を拭い続けながら黙ってみていた。

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ほるすたいんねこ(プロフ) - 海姫さん» コメントありがとうございます!楽しんでいただけているようでとても嬉しいです!!ゆっくりの更新ではありますが、お付き合いくださいませ。よろしくお願いします!! (2023年3月12日 11時) (レス) id: 4b2c935aae (このIDを非表示/違反報告)
海姫(プロフ) - めちゃくちゃ好みのお話です。表現方法も綺麗で楽しく読んでます。更新楽しみにしていますので、これからも頑張ってください! (2023年3月6日 0時) (レス) id: d925a11138 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ほるすたいん猫。 | 作成日時:2023年3月6日 0時

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