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「でも、逃げるって言ったってどうするの……」
学校の図書室で泣き崩れながらバラムの手を取ったクロは、すんすんと鼻を鳴らして彼を見つめた。
自分の心に正直になって、ずっと夢見ていたことを口に出したは良いものの、あの強大な力を持つアドラメレクから逃げ出す方法なんて言われようともピンとこない。
「んん……、そうだね。とりあえずちょっと待ってて」
「え、うん……」
少し考える時間をとった後、バラムはするりと立ち上がり本棚の中に消えていってしまった。
残されたクロはぼんやりとバラムの温もりが消えた手のひらを眺めていた。
他の人のぬくもりが、こんなにも心休まるものであることを、久々に思い出した気がする。
人間界で生活していた頃の両親の記憶や若いころに別れた恋人の優しさが連想されて、余計に元の世界に戻りたい気持ちが溢れかえってきた。
(私、アドラメレクから逃げられたら、どうするんだろう……)
バラムはクロのことを養親から虐待を受ける可哀そうな“悪魔”として見ている。
クロの身体的特徴も、この世界に数多く存在している悪魔の種族の一つだと考えているようだった。普通はそうだろう。根本的に別の生き物だとは露ほども思わない。
「……」
先ほど、バラムが提示してくれた未来を考える。
また、一緒に勉強をすること。
それがあの優しい少年の欲であるらしい。
なんて優しく柔らかい欲であることか。その欲をまっすぐに向けられたクロは今更になって恥ずかしさに襲われる。
まだ彼に白状していないことがたくさんある。アドラメレクに誘拐された人間であること、自分が一度子供に戻されていること、たくさんの実験をされていること、学校に行っている間は他の生き物や悪魔を実験の身代わりにしてしまったこと。
隠し事の多さに、思わず鼻で笑ってしまった。
「クロさん、これ見て！ とりあえずここら辺の地図持ってきたよ。これを見ながらクロさんが逃げる方法を考えよう」
パタパタと軽い足音が近づいてくる。
バラムが戻ってきたのだ。手には大判の地図や魔界に関する書籍がたくさん積まれている。
その視線は子供特有の純粋さが透けており、クロの罪悪感をちくちくと刺激した。
しかし、それでも。
「……うん、ありがとうバラム君」
彼を欺いてでも、クロには帰りたい場所があるのだ。
その欲を叶えるために、クロはバラムを頼り、利用することを心に決めた。
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ほるすたいんねこ(プロフ) - 海姫さん» コメントありがとうございます！楽しんでいただけているようでとても嬉しいです！！ゆっくりの更新ではありますが、お付き合いくださいませ。よろしくお願いします！！ (2023年3月12日 11時) (
レス) id: 4b2c935aae (このIDを非表示/違反報告)
海姫(プロフ) - めちゃくちゃ好みのお話です。表現方法も綺麗で楽しく読んでます。更新楽しみにしていますので、これからも頑張ってください！ (2023年3月6日 0時) (レス) id: d925a11138 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ほるすたいん猫。 | 作成日時：2023年3月6日 0時
