Ｓ Ｅ Ｖ Ｅ Ｎ # ３

想像を掻き立てる ページ42

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第一試合 10:00〜
海南(神奈川)ＶＳ馬宮西(岩手)＿＿


試合開始と同時に会場が熱気に包まれるなか、前半終了後のハーフタイムまでの暇を持て余していたナナは、今がチャンスとばかりに山王工業の控え室を飛び出して湘北高校の控え室へ一目散に走っていた。



『あった、此処だ…！』



一つ先の１階フロア出入口付近に備え付けられた部屋のドアに張り出されていた"湘北高校 控え室"と書かれた用紙を見つけてナナが足を止め、扉をノックしようとすれば、タイミングを見計らったように扉の開く音がして…



「おわっ、ナナ…！？」
『わ、リョーちゃん…!』



まさに出会い頭の衝突となってしまったナナとリョータの二人だったが、ナナは扉の前に立ち止まっていたため幸いな事にお互いそれほどの衝撃も無かったのだが…



『っ、ごめん！リョーちゃん怪我してない？大丈夫？』


「いや、こんなちょっとぶつかったくらいで怪我するほどヤワじゃねーから…」



昨日といい、今日といい、ガキの頃からすげー心配症な性格はこれっぽっちも変わってねぇな…と、変わらないナナの性格を改めて実感しながら指で頬をポリポリと掻いて苦笑いを浮かべたリョータに対して、



『ふふっ、そっか。なら良かった…』
(確かに今のリョーちゃんムキムキだもんね)



幼かった頃にやせ細っていたリョータと未だに重ねて考えてしまうのも悪い癖だな、と今のリョータを見比べて少し反省したナナが笑ってそう言えば、



「つーか、ナイスタイミングだな。俺もちょうど今からそっち行こうと思ってたんだ」



そろそろ人質解放してやろうと思ってよ…なんて言いながらちゃっかり左手にハマった赤と黒のリストバンドを掲げて見せたリョータの悪戯な笑みにつられてナナの顔も綻んでいく。


そして、



『あははっ、じゃあ私もコレ返さなきゃね』



と、ポケットからリョータから借りていたお揃いのリストバンドを取り出したナナが「ちゃんと洗濯もしてあるからね」と、リョータの前に赤と黒のリストバンド差し出せば…



「おっ、マジ？ありがと、ナナ」



へへっ、と分かりやすく喜んでみせたリョータがそれを受け取ったのだが、そこでリョータがマジマジとそのリストバンドを観察し始めて



「おー、なんか何時もよりふわふわだ。しかもすげぇ良い匂いがする…」


『それねー、私が何時も使ってる柔軟剤で洗ったの』


「ああ、なるほど」
(どおりで嗅いだ事のある匂いだと思ったぜ)



昨日どさくさに紛れてナナの首元に顔を埋めた際に鼻先を擽ったその香りと同じだと気付いた瞬間、リョータは目を見開きハッとした。



「……っ！」
(そういや昨日、俺のってシルシ付けたんだった)



しかも髪下ろしてるってことはまだ消えてねぇって事だよな、よっしゃ…！と隠れて見えない首筋が更にその想像を掻き立てて妙な興奮を覚えたリョータは、なるべく顔には出さないようにしようと思いながらもついつい口角が緩んでしまい、へへっ…とニヤついてしまうのだった。


すっかり柔軟剤の香りが気に入ったリョータが再度クン…と香りを嗅いだその流れでリストバンドの内側付近にその顔を近づけた途端に、



『わぁー、待って待って、リョーちゃん！』


「おわっ、なんだよ！急にそんなデケー声だして…」



咄嗟に大声でストップをかけたナナのあまりの慌てようにビクっと肩を震わせ驚いたリョータが目をパチクリと丸くしていると…



『それ、試合終わるまでは絶対に見ないで』


「……は？」
(いや、どういうこと？)



試合前にこっそり見るのも絶対に駄目だからね？と、理由も聞かされないままナナから執拗なまでに念を押されたのだった。



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