Past. ページ9
.
『明日、また来ても良いか…？』と、
そう言われて、素直に「うん」と答えれば
佐智雄はちらり、と私の方を振り向いて
少しだけそのポーカーフェイスを崩して微笑むと
『…じゃあ、また明日な』
と、だけ告げてそのまま病室から出ていった。
バタン、と小さな物音を立て閉まったドアを見て
明日も佐智雄に会える、
その事実だけが、
ただ、ただ、嬉しくて…
ニヤニヤを隠しきれない緩みきった顔もそのままに
再び力無くぼすん、とベッドに倒れ込んだ。
そして、ぎゅっと目を閉じて
噛み締めるのは佐智雄がまた近くにいる幸せ。
「…っ、」
(やっぱり誤魔化せない、私まだ…)
佐智雄が好き___
***
その日の深夜、懐かしい夢を見た。
それは私と佐智雄が出会った時のこと。
高校三年生の卒業を目前にした３月。
就職先も決まり、あとは卒業を待つだけ。
となると、最後の高校生活を楽しもうと
放課後はカラオケに行ったり
意味もなくファミレスでドリンクバーだけを頼み
何時間も居座ってお喋りをしたりしていた。
その日も、そんな何時もと変わらない日常で…
ファミレスで長時間居座って、
店員さんの冷たい視線も気にせず
くだらない馬鹿話をしていたら
気付いた頃にはすっかり日も暮れて
とっぷりと夜になっていた。
『あはは、じゃあ紗弥、またねー！』
「うん、じゃあまた明日ね」
何時もより話が盛り上がって遅くなったから
早く帰らなきゃ、と逸る気持ちから
駆け足で帰り道の路地を走っていた。
歩道橋を急いで駈け上がって
そのまま歩く人の隙間をすり抜けながら
下りの階段を降りていた時、
「…っ、わぁ！」
(ヤバい、落ちる…！)
急ぎすぎたのか地上まであと数段のところで
足を踏み外してしまって視界がぐらりと、傾いた。
思わず衝撃に備えて反射的に目を瞑った。
その瞬間、
『……っ、あぶねぇ』
そんな声と共に後ろからぐっ、と腕を引かれ
私は間一髪の所をたまたま背後にいた男の子に
運良く助けられたようで、
「…っ、ごめんなさい！」
「助けてくれてありがとうございました」
慌てて乱れた髪を整えながらぺこり、と
頭を下げながらお礼を言って顔を上げれば
『…別に、礼言われるような事してねぇよ』
なんて、さも当たり前の行動だったかのような
そんな口ぶりでふっ、と息を吐くように笑った彼に
そのまま、じっ、と見つめられれば
居抜くような真っ直ぐな視線にドキッとした。
この時初めてまともに顔を合わせた私は
こう、思ったんだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 575人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
やよい(プロフ) - あゆさん» あゆさん→コメントありがとうございます。あと少しで最終話にたどり着く予定なのでもうしばらくお待ちください(^-^)楽しみにしてくださって本当にありがとうございます！ (2020年1月2日 23時) (
レス) id: d2cb7d4c05 (このIDを非表示/違反報告)
あゆ - 続きが気になります (2020年1月2日 22時) (レス) id: 1e4a476949 (このIDを非表示/違反報告)
やよい(プロフ) - 聖菜さん» コメント下さってありがとうございます！佐智雄メインが探しても無くて作ってしまいました、笑。この先まだまだ長くなりそうですが頑張りますね☆ (2019年12月21日 13時) (レス) id: d2cb7d4c05 (このIDを非表示/違反報告)
聖菜(プロフ) - 凄く感動しました！続きが気になりますが無理せず更新頑張って下さい (2019年12月21日 9時) (レス) id: c9df35a019 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：やよい
| 作成日時：2019年12月17日 22時
