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息を止めて、気づいていないふりをしてた。

自分の気持ちにも、大倉くんが時々見せる強引さや優しいまなざしにも。


私はアクセルとブレーキを交互に踏み続けた。

自分に言い聞かせるように、彼に曖昧な返事をしてみたり曖昧な態度をとってみたり。


まるで、私の中に私が、ふたりいるみたいだった。



はやく終わりがくればいい。

一生、終わりがこなければいいのに。



どちらも本当の気持ちで、どちらをも切に願っていた。




箱に入れて捨てなければいけない時は、私が思っていたよりずっとすぐ、とても簡単にきた。


――あんたもう、東京からこっちに戻ってきな。

――あんたみたいなのと結婚してくれる優しい人がいるんだよ。


「週末に戻ってこい」と突然かかってきたおばさんからの電話。

覚悟はしていたのに、心臓が大きく波打って、しばらく呆然と立ち尽くして動けなかった。



すぐに、大倉くんの顔が頭に浮かんで。


大倉くんの、澄んだ琥珀色の優しい目や、時々彼からふんわりと香る柔らかい香り。

考えてはいけないと思っても、私の頭の中は、大倉くんだけだった。



私と結婚するらしいひとに会いに長野に戻った時も、その人と私は来年結婚することを告げられた時も、ずっと、


大倉くんのことしか考えられなかった。それはもう、呆れてしまうほど。



ブレーキ、かけてたつもりだったんだけどな。



私はもう、大倉くんを好きになってた。とっくの昔に。

もしかしたらそれは、内定式の日、彼を初めて見た時からだったのかもしれない。

分からないけれど、

大倉くんが好きだった。



目を見張ってしまうほどの綺麗な顔立ちも、

笑うとその高貴にも見える顔がくしゃっとして途端に明るい雰囲気を放つのも、

くせのある声も高い背丈も、

たまに女性的にも聞こえた柔らかい関西弁も、

控えめなのかと思ったら急に強引で頑固なところも、


列挙しはじめたらキリがないくらい、私は私自身の彼の好きなところを知っていた。




それなのに、彼を諦めなければいけない。





諦め上手だったはずなのに、そうやってずっと生きてきたはずなのに。

いっそ死んでしまったほうが楽なんじゃないかと思うほどに、苦しくて悲しくてどうしようもなかった。




それくらい、大倉くんのことが、好きだった。





「思いの丈」→←*



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蒼 夢見子(プロフ) - 幸さん» 幸様、とっても素敵な感想いただいてしまい、胸がいっぱいです…。おこがましいですが、読んでくださる方がすこしでも何か思ってくださるとすごくうれしい気持ちになります。こちらこそ、読んでくださり、もったいないほどの温かいコメントをありがとうございます…! (2019年10月31日 16時) (レス) id: e4c7cf5b6b (このIDを非表示/違反報告)
- とても、引き込まれるお話でした。見ることができて、よかった。vocabularyも豊富で、表現が繊細で、読者を震わせることができる人だと思います。これから、全て作品見ます。ずっと、応援してます。ありがとう。 (2019年10月29日 0時) (レス) id: 295a9fdbac (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:蒼 夢見子 | 作成日時:2018年9月12日 23時

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