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早歩きしたせいもあって会社のビルの自動ドアを潜る頃には背中にだいぶ汗をかいていたけど、
そんなことは気にせずにエレベーターに乗り込み『3』のボタンを押した。
彼女がいつも社食で昼食を取ってるかは知らんけど、この間みたいにおったらええなという気持ちとその反対の気持ちが入り混じる。
ヘタレの根本はそう即座になくなるわけやない。
ただ、少しでも後悔せえへん選択をできたなら。
――サンカイデス
ドアが開き、賑わう社食の入り口に入ろうとした時、
ちょうど、向かい側から彼女が歩いてきた。
目が合って、彼女はやっぱり表情を変えず小さく俺に会釈をするとするりと横を通り過ぎようとしたから、
「待って!」
声をかけて、腕まで掴んでもうた。
想像よりずっと、細い腕やった。
その声は思ったより大きくて、周りにおった人達がこちらを振り返るのが視界に入る。
驚き戸惑う顔で俺を見上げ動きを止める山田さん。
「ごめん、あの…ちょっと、ええかな。」
急に威勢がなくなったように慌てて彼女の腕を離し、小さく息を吐いた。
「いいけど、何?」
もう、彼女の顔からは驚きや戸惑いの色は消えていて、また温度のない声で俺にそう訊く。
「ここやなくて、向こうでいい?」
社食の外にあるカフェテラスを指差すと彼女はいくらか怪訝そうにしながらも頷いた。
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「この間は、ごめん。」
こんな風に人に謝るのは一体いつぶりやろう。
向かいに座っている山田さんの表情を控えめに伺いながら謝る自分は情けなく思えた。
「あれ、ちゃうかったんやろ?市瀬さんに強く叱ったって。」
彼女はかすかに視線を揺らしてから、「…ああ」と小さく笑う。
その時、初めて彼女が笑った顔を見た。
せやけど、それは随分と投げやりな笑みに見えたから俺は戸惑う。
「大倉くんって、真面目なんだね。」
投げやりな笑みを浮かべた彼女はどこか俺を感心するような言い回しをした。
それがやっぱり、俺を戸惑わせる。
「…真面目とかそんなんやなくて、」
「別に、なんとも思ってないから。平気。気にしないで。」
そうはっきりと言い放つ彼女に俺は違和感を覚えざるを得なかった。
彼女はほんまに『なんとも思っていない』のか。
彼女は傷つかへんかったんやろうか。
「…なんで、言わんかったん?」
ただ純粋に自分と彼女の温度差が居心地悪くて、俺はそう彼女に訊いた。
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蒼 夢見子(プロフ) - 茜音さん» 茜音様、初めまして。有難いお言葉に胸が熱くなりました…後先考えずにがむしゃらに書いてしまった荒すぎる出来の中でふたりの互いに想い合う気持ちは一番慎重に書いたのでそう言っていただけてとても嬉しいです!こちらこそ読んでくださりありがとうございました^^ (2018年11月10日 23時) (レス) id: d57fe18bd1 (このIDを非表示/違反報告)
茜音(プロフ) - はじめまして。あまりにも続きが気になって一気に読ませて頂きました。描写はもちろん、ヒロインと大倉くんのお互いを想う切実さが綺麗で、思わず息が詰まりました。とっても素敵なお話をありがとうございました。 (2018年11月9日 15時) (レス) id: c4843d23a9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蒼 夢見子 | 作成日時:2018年8月7日 18時