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「え?」
僕はよほど素っ頓狂な表情をしていたのだろう。彼女がくすくすと笑う。

「どうしたの?私何か変な事言ったかな。付き合ってくださいって言われたからいいよって言っただけのつもりなんだけど」

「まさかOKもらえると思ってなくて……。それこそ話したこともないのに」

「ふふっ、その話したこともない私に告白した人が何を言ってるの」

確かにそれはもっともな話だった。

「じゃあさ、とりあえずLINE交換しよ!私これから用事あってすぐ行かなくちゃならないんだ。また後で連絡するね!」

言うが早いかLINEを交換するとすぐに彼女は走り去ってしまった。あまりの呆気なさに先程の出来事が夢なのではないかとすら思えてくるけれど、画面上に表示される彼女のアイコンと名前が記憶の捏造なのではないのだと保証してくれる。

『藍崎絃(あいさき いと)』
今までなんども心の中だけで唱えていた名前を口に出してみた。初めて発音したはずの言葉はどうしてか口によく馴染んでいた。

昇降口を出て家までの道をゆっくりと歩きながら、これからは今まで遠いところにいた彼女の隣にいられるのだという喜びに浸る。

まさか付き合えるなんて思っていなかった。名前を確認された段階で希望はないのだと諦めた。それなのに付き合えるだなんて、こんな幸福あっていいのだろうか。

何時もなら煩わしく感じる雪すら今日に限っては自分を祝福してくれているような気すらする。雪の反射で世界がキラキラと輝いて見える。踏みしめた地面から感じるサクサクとした感触が心地よい。

そんな浮かれた気分で歩いていたせいで注意力が散漫になっていたのかもしれない。気がつくと足元には地面がなかった。代わりにあったのはマンホールの穴。

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作者名:志久真 | 作成日時:2019年6月18日 1時

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