Part0 [プロローグ] ページ2
目の前の『ナニカ』から溢れ出る深紅。先程までピカピカに磨かれていた床は次から次へと溢れ出る『エキタイ』によって汚されていく。
その中心にはほんの数秒前まで、掃除が終わった床を満足そうに眺めていた一人の女性が転がっている。
_______否、既に人間とはいえないただの『モノ』に成り果ててしまった。
今日も今日とて手応えも達成感もない仕事を1つ終え、帰路に着こうとする。
嗚呼、違う、『帰路』なんてそんなものは存在しない。帰る場所なんて私にはないのだから。
Aの無感情な瞳が目の前の光景を写す。
己が作り出した光景であるにも関わらずなんの感慨もわかない。もはや何故こんなことを続けるのかもわからなくなってしまった……。
それでもやらなければ自分は生きられないから。自分にはこれしかないのだから。
呼吸をして食事をとり眠りにつく、『普通』の人はそんな日常のルーティンをただ毎日繰り返す。
私もそれと同じだ。ただそこに「殺す」というひとつの工程が混じっているだけで。私にとってはそれが普通。
死体がつけていた香水と血の匂いが混じって、今にも吐きそうなほど気持ち悪い匂いが空間を満たす。
こんな空間一刻も早く出ていきたい。そう思い足を進めようとするが外に出る直前、任務のことを思い出す。
そもそも今回の暗殺は、殺すこと自体が目的ではなくその先に得られるものが目的である。危うく忘れるところだったが寸前で気づくことができた。
靴の裏に血がつかないようにしつつ大股で鍵の付いた棚の前まで辿り着く。予め持ってきていた針金で鍵を開ける。ピッキング位はこの手の職業についていればできて当然の技術である。
カチャッという軽い音と共に棚の1番上が開く。資料にあった通りの黒い箱を手にして棚を閉じる。必要以上に証拠を残すのは得策ではない。
愛用のナイフとピッキングに使った針金を仕舞い、今度こそ外に出るべく扉を目指す。
箱の中身なんて気にならない。気にしてはいけない。
だって私は暗殺者なのだから。
暗殺者に感情は必要ない。
私に感情は必要ない。
ただ言われた通りに動くだけの人形だ。
_______きっとこれからも永遠に。
これはこんな私が未来の希望を見つける話。
これはこんな私の過去が絶望に変わる話。
これは私が感情を見つける、そんな誰のためでもない自分だけのための話だ。
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作者名:志久真 | 作成日時:2018年8月18日 19時