甘くないケーキ ページ36
あの日から2、3日たつ。大雨は止まないままだった。
曇天は部屋の空気を暗く濁らせた。大きな雷が降ってきて、思わず食べているものを喉につまらせてしまいそうだった。
「すごく大きかったな」
空を見上げ彼は言う。その手には文庫本が握られていて、大きな手で隠されているので途中までしかわからないが、タイトルは「ツナ…」 と書かれている。
相変わらず食事は食べない。後から気づいたことだが、水分を接種している様子も見受けられない。この猛暑にそれは危ういのでは、とも思ったが、彼はその顔に似合わずいつも健康的だった。
二人でいる時間が気まずくなってきた。前まではそんなことがなかったのに、と思いながら、飄々とした様子の彼をこっそり見つめる。
謎はいっそう深まるばかりだ。数々襲い来る恐怖と、今だ計り知れない彼の全貌、あけるどころか一層濃さをます闇のように、それはそこに佇んでいる。
何か行動を起こさねば、と思案し、問いかけするのはいいものの、ここ最近彼の態度がなんとなく素っ気ないのだ。何気ない質問でさえ、彼は一瞬で解答を終わらせる。まるでボロが出るのを押さえているかのように。
核心に迫るのをうまく隠すため、当たり障りのないことを聞くだけではダメなのだと悟った。話しても良いと思わせ、かつつい口が軽くなってしまいそうな、そんな話題を出すべきだ。
柔らかく煮込まれた筑前煮の蓮根を、長い長い間噛み続けながら考える。
「ちょっと固かった?」
心配そうにこちらを見つめるスグルさんの表情がそこにはあった。
まずい、と思った。いや料理は文句無しに美味であるが、険しい顔で料理を口にしていれば、作った人間は自分の腕を疑うに違いない。
「いや違うんです、その、考え事をしてて……」
「何考えてたの?」
ぽろりと、考えもしなかった台詞が、この場を乗りきるためだけに吐き出される。
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作者名:地獄職人(匠) | 作成日時:2021年1月27日 23時