寒い夏 ページ29
体が火照るのは夏の暑さのせいだけではないような気がした。
それと同時に、彼がもしかすると人間としての形を持っていないのではないかという疑問をもち、よくない考えが頭の中を駆け巡っている。
手は確かに頬に触れていた。冷した陶器、それか氷を直に肌に当てられたような、瞬間的な冷たさは、この世に存在するものとしての質量を感じさせた。しかし人間らしい暖かみがない。これが問題であった。
あやかしか、化け物の類か、自分にはそうとしか考えられなかった。ただ、人でないことだけは明らかであった。
本能では彼を人間だと思いたがっていた。鼓動が高鳴る。汗がひとつ、生まれて、額から頬を伝い、首を流れ、鎖骨に溜まり、やがて消えた。どうしようもなく暑かった。
この一瞬に生まれた疑問の数々がどうとでもよくなってしまいそうだ。
彼の指が少しの間だけ顔に触れたあと、顔の回りを冷たい風が満たし、彼の高くも落ち着いた声が、耳にこそばゆくなるほどよく聞こえた。よくもああいう恥ずかしいことが言えるものだ、と思い出したくもない台詞の数々が脳内に浮かび上がる。
彼が、なぜか特別に見えた。あのような大胆な行為で発露した感情だと思うと自分の事が情けなくてたまらない。形の定まらないものを必死でつかもうとしているような感覚だ。
経験したことも、教えられたこともない感情が、理解できやしないのに存在だけそこにある。
照れ臭くなって、恥ずかしくなって、とにかく別の事を考えたくて、どうにか頑張ってみる。
本当の告白。
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作者名:地獄職人(匠) | 作成日時:2021年1月27日 23時