20.死せる金狼【前】 ページ21
「好きな物は好きでいいんだ、何かのために嫌いになったりしちゃいけない。好きって気持ちを無下にしたら、いずれ自分の気持ちに正直になれなくなる」
こんなことした私が言えたことじゃないんだけど、と彼は付け足した。
自分ではとうに理解していたことだが、面と向かってその言葉と向き合うと、何だか不思議な気持ちになった。気持ちに纏まりがつかない。
「ああ、思い出した」
ゲトウさんはポケットから手を抜く。その手に例のものが握られている様子はなく、少し不安になった。
「人の大切なものを預かるんだから、壊れないようにって、あそこに入れてあったんだ」
あそこって、そう聞く前に彼はもう行動に移していた。ぱちんと指をならすと同時に、ゲトウさんの肩に赤子の肥大化した顔がついた芋虫のような化け物が現れる。ひい、と小さな悲鳴をあげると、それは怪訝そうに何かをつぶやきだした。もっと不気味に思えてきて、つい後ずさりをする。
「そう怖がらないで、便利なんだよ、この『子』」
そう言うと、見覚えのある布の塊が、化け物の口から涎のような物と共に吐き出された。
途端に怒りが涌き出てくる。
「大切なパーツって、わかってたんですよね」
「うん」
「何でそんなところに入れたりするんですか!?」
彼は目を見開いて驚いていた。対して自分は精一杯頬を膨らまして、涙をこぼした真っ赤な顔で、彼に対して怒鳴りあげる。
「涎がついたりなんかしたら、もう、どうしてくれるんですか!というか、ゲトウさんがとってくださいよ、この!涎まみれの布の中から!」
岩のごとく固い彼の腹筋を全力でポカポカと叩き上げるが、びくともしない。彼は、ふは、と息を吹き出して笑っては、またさらに自分の怒りを増幅させた。ついには声押さえながら限界だといった様子で笑い出す。
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作者名:地獄職人(匠) | 作成日時:2021年1月27日 23時