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3.名乗れ異邦人よ(★) ページ3

しばらく走っていると、イタチは急にぴたりとその場で立ち止まった。膝だちで、頭をぐたりと、実った稲穂のように垂れる。よくよく考えてみると、なぜ自分がこの生き物の後を追っていたのかよくわからない。珍しさか、美しさゆえか、荒い息を漏らしながらその姿を今一度見ようと顔を上げた。

そこには人がいた。無臭であった。渋い香りを彷彿とさせるような袈裟姿の男は、洗濯洗剤であるとか、染み付いた己の匂いであるとか、要するに人間らしい匂いがまったくしなかったのだ。故にその存在に気づくことができなかった。田舎の澄んだ空気が鼻腔を抜ける。それに相反するように、治安の悪そうないでたち、福耳に添えられたピアスが、いたずらに感覚をくすぐってくる。

風が吹くのにしたがって、長い黒髪が揺れる。
男は唖然とした自分を前に、平気そうな顔で口を開いた。

「君、この子が見えるんだね」

「見えるって一体?」

「とぼけないでほしいなあ」

少し苛立っているのがわかる。何故か自分の命に危機が迫っているかのような気がして、一瞬にして汗が顔を満たした。震えながら口を開く。

「その白いイタチのこと?」
「そう、呪霊のこと」

ジュレイ?と、人生においてまったく聞き覚えのない一単語を鸚鵡返しのように聞き返す。本気で驚いた顔の男は突然、ふは、と軽快に、そして静かに笑った。

「聞き方が悪かったかな」

先程とは打って変わって、明るくも少し軽薄さが読み取れる笑みを見せながら語りかけた。男の合図とともにイタチは彼の体を螺旋状にかけあがり、肩へ降り立った。尖った視線をこちらへ向けている。男はこう問うた。


「君、昔から変なものが見えるだろう」


実に核心を突いた言葉の並びであった。たじろぎながら目を見開き、確かに今日初めて会ったはずの男の顔を見つめる。塩顔だが、日本風の整っている顔をしていて、切れ長の目が妖艶さを際立たせる。狐にでも化かされているのかと正気を疑う。しかし、これまで自分だけのものであった事実が他人の手に渡っている今、抗うことのできない妙な説得力が、自分に圧をかけていた。
イタチは赤い目をしていた。涎のしたたる牙が、血や肉を連想させた。

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設定タグ:呪術廻戦 , 夏油傑 , 男主   
作品ジャンル:アニメ
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作者名:地獄職人(匠) | 作成日時:2021年1月27日 23時

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