残暑見舞い【夏油傑】【男主】【呪術廻戦】 (ページ13)

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12.溢れる愛情ページ13

「暇だな」

だだっ広い敷居と天竺までの道のりのように長い道、人のいない商店、一人の都会っこの少年、これらに通ずる静けさを、彼は感じていた。
まるで人の気配が感じられない。祖母の家が比較的人口の少ない地域にあるのも影響しているのだろうが、まさか彼女だけがここの住人というわけでもない。
青々とした稲の群生にさえ共感してしまうほど、とにかく命の気配がなかった。
一人、アスファルトの敷かれた十字路でしゃがみこむ。するとひとつの影が見えた。

「げ、鼬……」

彼の愛玩動物であろうその白鼬は相変わらず美しい毛並みをしていた。小さな体を持っていながら肉食獣さながらの力強さを感じさせる出で立ちに少なからず恐怖心や畏怖のようなものを抱いていた。
白鼬は赤い果実のついた枝を口でくわえている。自分と目が合うなり、走ってこちらに駆け寄ってきた。
少し驚いて体が跳ねる。白鼬は立ち止まり、躊躇した。動物に表情があるかなどわからない。しかしどこか涙に濡れたような赤い瞳に同情した気持ちからか、おいで、と来るのを促すように手を広げてみた。

白鼬は戸惑いながらも駆け寄ってきた。その美しい毛並みを撫でる。気持ちのよい撫で方など到底わからなかったので、人間を誉めるように頭を撫でる。すると白鼬は心地よさげに手に体を擦り寄せてくる。ふと笑ってしまった。

そして白鼬は急に思い出したかのように、赤い身のついた枝を差し出す形で、口をこちらへ付き出してきた。小さいときバアちゃんにとってきては一緒に食べていた果実のそのものだった。自分はそれを快く受け取り、ひとつ口にいれる。酸味が強いが、どこか懐かしくなるような優しい甘さが口に広がる。もうひとつ枝からとり、白鼬に差し出した。嬉しそうに頬張っている。

ふと、彼のことを思い出した。