残暑見舞い【夏油傑】【男主】【呪術廻戦】 (ページ11)

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11.屠れ川蝉よページ11

何がゲトウさんの形相を作り上げたのか、自分にはわからない。けれどその中に、道徳的な怒りがあるのは理解できた。救われたかもしれない人間が救われないことに憤慨するような、そういった怒りだと思う。

「じゃあ、君の友達とか……親にも呪霊が見える人はいなかったのかな」

「……はい」

思い出すのはまともに顔を思い出すことのできない両親のことだ。表情に寂しさがにじみ出るのを止められない。

「いるにはいるよ、他にも呪霊が見える人は。少ないけどね」

自分の不安感をほぐすようにゲトウさんは口角を少しだけ曲げ、笑いながら言って見せた。薄い唇が照っていた。

「ごめんね、あんまり重いことを話しすぎるのは良くないから、また聞いてもいいかな？忘れた頃に」

「はい、もちろん。その……ありがとう、ごさいます」

心から出た謝礼の言葉であった。彼は暗黙に照らされた、人生という名の道を照らしてくれた。その道の出口も、右も左も、進んでいるか後退しているかさえもわからない。それだけでも自分にとっては救いだったのだ。
そういった自分の思いを感じ取ってくれたのか、彼は何か難しいことを言うことはなかった。

「こちらこそ……お風呂どうする？もし入るなら湯を沸かすけど」

「もう夜も遅いし……寝て起きたら入ろうと思います」

わかったよ、と彼は言った。
腹が満たされて落ち着いたのか、いつのまにか心地のよい眠気が自分を襲っていた。少し半目ぎみになり、あわてて目を見開く。

「君、いくつだっけな」

「13です、今年で14」

「ませてるというか、大人びてるというか」

頭に入る言葉も、口から出る言葉も、どこかふにゃふにゃしたものになっていた。それを見て彼はふふ、と微笑ましそうに笑った。

「それじゃあ、私は隣の部屋に布団を敷いているから、困ったことがあれば呼ぶんだよ」

「はい、おやすみなさい」

彼の言葉はしっかり聞き取れていたものの、ほとんど理解することができていなかった。
部屋に入り、まだ畳まれている布団に身を投げる。
気持ちがよかった。こんな気持ちはずいぶん久しぶりな気がした。