残暑見舞い【夏油傑】【男主】【呪術廻戦】 (ページ1)

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1.還れ夏霞よ(★) ページ1

誰の見送りもないまま、新幹線に乗り込む。席につくと車両は直ぐに出発し、景色は繁華街のきらびやかな光を見失った。
両親は駅まで車で運ぶだけ運んで、自分がしばらくいなくなることに悲しみなど抱いていなかったかのようだった。しばらくこの地に戻ることはないだろう。
本望だ。

小さい頃から不思議なものが見えた。
この世の命の法則に則る気のない、不可思議で不規則な形のそれは、ふとした時姿を見せる。潜む恐怖心がそうさせたのか、不思議と近寄ることは出来なかった。
幼いながらに純粋な自分は、珍しいものを共有したがるあまり、その存在を決まって他人に伝えていた。
すると友人はおろか、両親まで自分を異端扱いするようになった。
目線など向けられるだけ有難いものだった。孤独は安楽だと気付かされたのはつい最近のことだ。

やがて世界のどこにも自分の居場所がないように感じた時、自分は療養という名目で両親の手により祖母の家へ送られることになっていた。

橙に染まる空は、段々夜闇を孕んでいき、限りなく黒に近い紺を見せていた。
遠い遠い向こう側の景色で、蛍光色が光るのが見える。美しいとは思えなかった。妙ないやらしさと軽薄さが、代わりに自分の感情を染めていった。
新幹線は刻一刻と進む。
不思議なことに、自分以外誰も乗客がいなかった。

2.追え脱兎よ(★)→