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三月七日 坂口安吾との邂逅5 ページ23

だが、其処まで気にする様な年齢では無かった筈である。

別に紅葉が歳だと云う訳では無いが、紅葉よりは若いし。

弥生の年齢を音として出そうと途中まで云った時、またカチャリと金属音がした。

今度は、腰を曲げた事に依って響いたものでは無い。

本気で安吾に銃口が向けられている状況であった。

若干霞む程近くにある銃口。

思わず息を呑む。

「蜂の巣か出血多量、其の時になったら、何方か選ばせてあげるよ。」

猫撫で声で、柔らかで、けれど慥かに殺気を孕んだ声が安吾の脳内を撫で回した。

再度息を呑む。

こくりと鳴った喉の音が、妙に五月蠅く響いた。

安吾がぎこちなく頷けば、銃口はするりと退いた。

腰の拳銃嚢に、黒光りする銃は仕舞われる。

慥か、特別製の彼女専用の銃だった筈だ。

暗い影が落ちていた顔が、再び安吾に向いた時、其の顔に殺意は無かった。

裏か表かも判らない優し気な笑みを、只湛えていた。

あ、と思いだしたかの様に弥生は声を上げた。

「ねぇ、別に私相手に敬語は要らないよ?只むず痒いだけだからさ、敬語なんて。」

もう何処にも殺意なんて無かった。

だからと云って、特別優し気でも無い。

一番最初、安吾に問い掛けた弥生の声であった。

安吾は気を取り直し、口を開く。

「いえ、此れはもう癖なので。」

「何だ、詰まらない。」

心から詰まらなさそうな声で弥生は云った。

一体、何の面白さを求めると云うのか。

安吾は溜息を吐き、書類を手に取る。

そして、またサラサラと筆を走らせ始めた。

何枚か終わった後、未だ自分の前から動かない気配に顔を上げる。

其処には、弥生が興味津々と云った様子で安吾の書類を覗き込んでいた。

「……帰らないんですか?」

「逃げて来たの、匿って。」

若しも弥生の言葉が形を成していたなら、其の語尾には桃色のハァトが付いていた事だろう。

若しかして、自分の処に来たのは口封じの為なんかでは無く、只匿って欲しかっただけ……?

口封じは、序で?

安吾は、盛大に溜息を吐き、弥生を出来るだけ無視する様に努力した。

其の数分後、安吾の細やかで、こぢんまりとした大切な個人部屋は、弥生を捜しに来た遊撃隊で賑わう事を、安吾は未だ知らない。

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作者名:永魔堂 | 作成日時:2018年11月11日 19時

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