三月某日 絶対のマフィア5 ページ17
現世が見える水辺から去る時、不意に弥生が後ろを振り返った。
徐に拳銃嚢から銃を取り出し、銃口を水面へと向ける。
水辺の方へ向いていた所為で、広津からは表情が見えない。
重く、ズシリとした、けれど少し高い銃声が響いた。
其の音とは対照的な、水面が揺れる間抜けな音がする。
遠目でも判る程に波紋が広がる水面は、先刻立原が映っていた場所の筈で……。
地を這う様な低い声が弥生の後ろ姿から聞こえた。
「何れだけ立原君が愛しくても、仲間である広津さん達を殺したのは、許せない。」
ギリギリと云った歯ぎしりが今にも聞こえてきそうな声音だった。
手を伸ばし掛けるが、あまりの殺気に条件反射で引っ込めてしまった。
「立原君が来たら……――」
深い呪詛の様な言葉が聞こえたが、本当は何を云ったのか判らなかった。
只、物凄い殺気が全身から放たれているのと、地を這う様な声が確かであった。
広津は話し掛けようとして、口を噤む。
不意に彼女の昔の二つ名が記憶に蘇ったからだ。
未だ芯からのマフィアで、現首領に善く似ていた頃の彼女は、本当に冷血で残酷な人間であり、ついた二つ名が「絶対のマフィア」。
彼女は、頭の先から爪先まで、そして骨の髄まで、心だけではなく体の凡てがマフィアであり、其の事実が違え様の無い「絶対」である事から、此の名が着いたと云う。
噂でしか聞いていなかったし、身近にいた頃は未だ未だ幼い子供である様にしか見えなかった為何とも思わなかったが、大人になった弥生を見て実感した。
彼女は、マフィアである。
頭の先から爪先まで。
骨の髄まで。
何処までも、マフィアである。
例え、心身から愛情を注ぎ、育てようと決意した子にすらマフィアの為、仲間の為なら銃口を向ける。
冷血で、残酷な。
弥生は、「絶対のマフィア」だ。
くるりと弥生が振り返る。
銃は拳銃嚢に仕舞い、顔には何時もの笑顔を浮かべて。
「さァ!行こうか広津さん!」
柔らかな声音。
だが、先刻の雰囲気を見た後では、只人を凍らせる力しか無かった。
広津は弥生の言葉に、只々頷いた。
三月六日 彼女は目を見開いた後、ゆっくりと其の名を口にした(友人M・Iリクエスト)→←三月某日 絶対のマフィア4
2人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:永魔堂 | 作成日時:2018年11月11日 19時