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小さき命。 ページ49

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無神論者の神父は語っていた。ゆらりと目を細め、柔らかく笑い、面白そうだと言いたげな顔をしている。それに溜息を吐き出しては、ヒラッと手を振り、やめろと言う。それでも、そいつは柔らかく笑ったまま、喉を鳴らしながら笑っていた。





「なんだよ、」

「やっぱり、吸血鬼って人間となんも変わらないね。」

「ふざけんな。」

「サーシャ、妹はいいよ。すっごく可愛い、」

「はっ、お前にとってはそりゃそーだろ。オレにとっては違うかもしんねぇのに、」

「違くないよ、サーシャ。君も、出会えばわかる。じゃあねサーシャ、僕はもう暫く旅をするよ。いつかまた出会ったその時は、妹の話聞かせてね。」





愛おしそうな声で語りつつ、神父の片手に握られている百合は、とうに枯れていた。それが何を意味しているのか、分からないほど馬鹿でもない。魔界への扉が開かれたまま、ゆらゆらと風に流されるようにと髪が揺れる。酷く、夢見心地が悪いと感じていた。次なんてあるかも分かんねぇのにな、と言おうとして、けどやめて。そのまま振り返らずに、魔界へと足を踏み込む。変わらないような風景のまんま、行く前と大差なんてないだろう。そのままと言うように、家へと足を運び、そして扉を開ける。小さな幼子を抱きしめている母親の姿を、オレは見つめた。




「おかえりサーシャ。見て、可愛い女の子よ。」と語る母親の声は、酷く甘かったと思う。甘党であるオレでさえも、胸焼けしそうだと思うほどに。かつんっ、足音が響く。ベッドに寄り、胸元に抱き上げられている幼子を見下ろした。手を伸ばせば、小さな手に指を掴まれる。きゅうっ、と弱くてけど強い力で、指を握られた。その感覚に、心臓の高鳴りを感じる。ぎしり、とベッドに腰かけては、その小さき命を見つめていた。まだ産まれたばかりであろう、幼子は紛れもない自身の心臓にもなり得るのだろうか。





「サーシャ、あなたお兄ちゃんになったのよ、」

「……………お兄ちゃん、ねぇ。」

「んふふ、サーシャがお兄ちゃん。あなたのお兄ちゃんたちが、あなたを愛して可愛がったように、あなたもこの子を愛して可愛がるの。」

「マ、なんかあった時は守ってやるよ。」

「良かったわね、A。優しいお兄ちゃんが、未来永劫あなたの傍に居てくれるって。」

「未来永劫、ねぇ。」





無神論者の神父の言葉は、確かにそうだったな、と思っていた。ほんとに、お前もオレも馬鹿なヤツ。

*ことりから。→←我儘プリンセスに寵愛を。



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あめ - めっちゃこのお話好きです…!!更新待ってます!! (2月18日 22時) (レス) @page37 id: a85ab24ed5 (このIDを非表示/違反報告)
(^o^)/(プロフ) - うわうわうわ待ってました大好きです。コメント失礼しました。 (2月7日 0時) (レス) id: b873b0040b (このIDを非表示/違反報告)
poco(プロフ) - 初コメ失礼します!いつも楽しく読ませて頂いております!釈迦さんとの絡み最高でした!是非、他にも釈迦さんや釈迦さんのお子様との絡み等々投稿して頂けると泣いて喜びます(笑)応援しています! (2月6日 17時) (レス) id: 7086e430c4 (このIDを非表示/違反報告)
ルナストーン(プロフ) - 初めまして、作品楽しく読ませて頂いております! 本編読む前に説明にある「わかった、オレが令和のドラえもんになる、待ってろ。」が好きすぎてそこから進めないことが多いですそれだけですありがとうございました!! ご自愛くださいー!(?) (10月24日 23時) (レス) id: f44ffe4945 (このIDを非表示/違反報告)
なるみや(プロフ) - とてもすきですかわいい (10月24日 2時) (レス) @page9 id: 7e54cbffac (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ことり | 作成日時:2023年10月22日 0時

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