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ワーワーと、放課後の喧騒が耳に刺さる。
生徒たちは学園祭の時期らしく、準備に勤しんでいた。
「本当に劇の主役おめでとう!A!」
「Aは可愛いし、やっぱり劇の主役に選ばれて当然だよな!」
私は、鶯坂A。
うちのクラスの学園祭での出し物は劇だった。
ロミオとジュリエット、叶わぬ悲恋の物語。
そこのジュリエット役が私だった。
容姿が美しい、それだけ。
選考理由はそれだけだし、私が目立って立候補したわけではない。
他者からの推薦だった。
でも、役に決まったからには全力で取り組まなければこの場では反感を買うだろう。
「A、今日一緒に遊びに行かね?」
「いや、今日は私達の勉強に付き合ってもらうのよ!」
私の周りは常に人でいっぱいだった。
あまり人に合わせるのは好きじゃないし、得意な方ではない。
今の約束だって、私が決めたわけじゃない。
クラスメイトたちが盛り上がって勝手に決めただけ。
ここまで言ってしまえば、私は冷たい人間だと批判されてしまうかもしれない。
ため息を付いて、また作り笑顔を作った。
「ごめん、今日は約束があるの。また今度ね!」
言い訳をして玄関に向かう。
私の周りには厄介なクラスメイトに加えて、雑誌や芸能事務所のスカウトの人たちが多かった。
一斉に走り去り、玄関を抜ける。それを追って多数の記者が追いかけてくる。
私が走って逃げていると、目の前によく見知ったクラスメイトが居た。
「た、助けて…」
肩で息をしながら話しかける。
ここまでしつこく追いかけられたのは初めてだ。
この際、逃げることができれば誰でも良かった。
「え、な、なに…?」
「と、とにかく…私、色々あって…」
「え、ええ…?あ、じゃ、じゃあこっちに公園あるから、こっちに…!」
私が話しかけたクラスメイトは、柚木普くんだった。
手を引っ張ってくれて、私は記者を何とか撒くことができた。
「ありがとう、助かったよ」
私は笑顔で話しかける。
一瞬普くんの顔が色づいた気がした。
まあ、私と話した男子がだいたい見せる反応だから、私はあまり気にしていなかった。
ただ、私は一つ気になることがあった。
普くんは何故か、全身が傷だらけだった。
流石にやんちゃ盛りの学生の男子といったって、この傷つき方は不自然すぎる。
私は少し気になって、彼に聞いてみることにした。
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