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どのくらい経ったんだろう。
暗闇の中で、沈みかけた意識が僅かな物音で浮上する。
何の音。背後から聞こえた事だけは分かったの。
気になるなら確認すればいいのに。
そうは思っても、膝に預けたままの頭が重くて持ち上がらないんだ。
ヒタヒタ、と足音。
………足音?あぁ、なら正体はあの人しかいない。起こしちゃったかな。
「_____Aさん。起きていますか?」
存外近くで、眠たそうな彼の声が聞こえた。
程良く低くて、優しさの籠った心地良い声。
顔を上げるのも声を出すのも億劫な代わりに、ゆらゆらと重心を利用して頭を揺らす。
私の雑な反応で起きていると分かったのか、彼はソファを陣取る私の隣にくっつく様に座った。
座面が沈んで、丁度良いバランスで保っていた身体の重心が崩れてしまった。
傾いた身体は、隣にいる彼の肩が受け止めてくれる。
「冬物の毛布まで被って…。暑くないんですか」
「うん」
「私は暑いので戻って良いですか?」
「ご自由に」
好きにすればいい、これは私の問題だから。
強制するつもりもないし、彼の休息を邪魔する気も無い。
小さく溜め息を零した彼は立ち上がった。
それから直ぐに、謎の浮遊感が私を襲った。
「は、、、、?」
「こんな暑苦しい部屋に貴女を放置するわけにはいかないでしょう。さぁ、戻りますよ」
「い、いや私は「そんなに熱中症になりたいんですか?」ッ……」
毛布越しに背中と膝裏にまわされた腕に力が籠り、思わず見上げると真っ黒い笑みで脅された。
月明りだけが頼りの真っ暗さが相俟って、余計に恐怖を感じる。
だから、ほぼ反射的に黙ったのはしょうがないでしょ。怖いもん。
「驚きましたよ。起きたら隣に気配を感じなかったものですから」
空調の整った寝室へ戻り、ベッドの端へと静かに降ろされる。
移動しても尚体育座りで蹲る私の隣に、彼もゆっくり腰かけた。
「ベッドに残っていた体温からして、1時間は彼方にいたようですが。何をしていたんです?」
「……水を飲みに行ってました」
「それから?」
「……ボーっとしてました。眠くなかったので」
半分嘘で、半分は本当。
水は飲んだし、ボーっともしてた。
でも眠くなかったのは嘘。寝たい気持ちは山々だったけど、目を閉じたら鮮明に映ってしまうから。
また魘されたくなかったから、起きているしかなかった。
簡単な返答しかしなかった事を不審に思ったのか、彼は徐に私を抱き上げて自身の膝へと乗せた。
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雪見だいふく - このシリーズ大好きなので、続編書いて欲しいです!リクもさせていただきたいので、よろしくお願いします! (2021年10月22日 18時) (レス) id: 0b9e52d702 (このIDを非表示/違反報告)
琉流 - 続編をお願いします! (2021年10月21日 22時) (レス) @page49 id: 45a1f0a151 (このIDを非表示/違反報告)
琉流 - すみませんゴーゴリのヤンデレは…… (2021年10月5日 1時) (レス) @page45 id: 45a1f0a151 (このIDを非表示/違反報告)
琉流 - 上手だと思いますよ、棒人間しか書けない私にとっては羨ましいです。 (2021年8月26日 1時) (レス) id: 45a1f0a151 (このIDを非表示/違反報告)
みかん(プロフ) - フョードルの制裁論お願いします (2021年8月22日 7時) (レス) id: 68ec6172c9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ハル | 作成日時:2021年2月22日 21時