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〇
「Aさんが、目を覚ましたよ」
湯の滴る髪を拭いていた時、銀の安心したような声が扉越しに聞こえた。
まだ髪が濡れているにもかかわらず、芥川は即座に浴室の扉を開け放ち、Aのいる部屋へと走った。
バタンッと音をたてて扉を開ければ、此方を向く虚ろな瞳と目が合う。
「Aッ……!」
「……おはよう、龍くん」
弱弱しくも微笑む彼女に、うっすらと安堵した表情の芥川が近寄った。
身体を起そうとベッドに手を突くAの背を支え、立て掛けた枕に凭れさせてやる。
「…具合は」
「もう大丈夫だよ。御免ね、心配かけて」
「無茶をするなと、あれ程言っただろう」
「うっかり薬を飲み忘れただけだから。龍くんこそ、ちゃんと拭かないと風邪引いちゃうよ?」
彼女はベッドの端に腰かける彼に向って手を伸ばした。
彼の首にかかったままのタオルを手にとり、ちょいちょい、と芥川に手招きする。
芥川はキョトンとした顔で彼女に近寄った。
「んふふ。龍くんの髪、濡れていてもふわっふわだねェ」
芥川の頭にタオルを被せたAは愉しそうに、彼の髪を拭く。
「風邪を引いて大変なのは龍くんも、でしょ」
「…………」
正解。正解すぎて何も云えない龍さん←
彼はムスッとした顔で、彼女にされるがまま身を任せた。
「あ、銀ちゃん!」
いそいそと部屋に入って来た銀の手には、湯呑みが3つと、カットされた無花果の乗った盆があった。
「此方がAさん用」
「ありがとう」
彼女は白湯の入った湯呑みを受け取り、口をつける。
それを横目で見守りつつも、銀は兄へお茶と無花果を手渡した。
「夕飯食べてないでしょう?」
「……有り難く頂戴する」
「あはは!流石、銀ちゃんだね!私に世話を焼く龍くんの世話を焼くのだから」
良いお嫁さんになるねぇ、とAが零せば、銀の頬が少し赤くなる。
「うふふ、龍くんもそう思、んむっ?!」
「美味いか」
同意を得ようと彼女が口を開いた処に、芥川によって無花果が放り込まれる。
「美味しいけど、んぐっ」
「そうか」
「龍くん怒ってるでしょ、絶対怒ってむぐっ」
こんな龍さんなりの不機嫌の意思表示という名の餌付けは、無花果が無くなるまで続きましたとさ……。
「御免って、御免ってばぁっ!」
「(仲が良いな、二人共)」
fin.
改めまして、月華様リクエストありがとうございました!
大変長らくお待たせいたしました_(._.)_
○
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雪見だいふく - このシリーズ大好きなので、続編書いて欲しいです!リクもさせていただきたいので、よろしくお願いします! (2021年10月22日 18時) (レス) id: 0b9e52d702 (このIDを非表示/違反報告)
琉流 - 続編をお願いします! (2021年10月21日 22時) (レス) @page49 id: 45a1f0a151 (このIDを非表示/違反報告)
琉流 - すみませんゴーゴリのヤンデレは…… (2021年10月5日 1時) (レス) @page45 id: 45a1f0a151 (このIDを非表示/違反報告)
琉流 - 上手だと思いますよ、棒人間しか書けない私にとっては羨ましいです。 (2021年8月26日 1時) (レス) id: 45a1f0a151 (このIDを非表示/違反報告)
みかん(プロフ) - フョードルの制裁論お願いします (2021年8月22日 7時) (レス) id: 68ec6172c9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ハル | 作成日時:2021年2月22日 21時