自由な君と。- 豪炎寺修也 - ep2 (ページ33)

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特訓、と。ページ33

鉄塔広場へ向かうと、鈍い音が響いてくる。

「こんな事だろうと思ったよ」
「それで魔人ザ・バンドがマスター出来るのか」

鬼道さんと修也くんが声をかけると円堂くんが振り向いた。
もう既にボロボロな円堂くん。

「とにかく、俺にはこれしかないからさ」
「手伝おう」
「ほんと？！」

喜んだ円堂くんに、修也くんと鬼道さんは笑いあった。

「サッカーバカになってみるか」
「世宇子に勝つ秘訣になるかもしれない」

木にタイヤを3つ付けて、ユニフォームに着替えた修也くん達。
サッカーボールも用意して特訓を始める。

私もジャージに着替えて手伝う。
タイヤを揺らして、ボールを拾って。

「わ！すまん！A」
「ううん、大丈夫！取ってくるね」

明後日の方向へ飛んで行ったボールを取りに走っていく。

「あれ、木野さんに雷門さん」
「貴方も特訓を……？」
「え、いや。お手伝いだよ、ちょっとボール取ってくるね」

2人とすれ違い、行方不明のボールを探す。

「あった」

木の影になっていたボールを拾い、みんなの所へ戻ろうとすると誰かがそこに立っていた。
同じ背丈の、赤い髪の男の子。

「やっと見つけた」
「……へ？」
「今もサッカー続けているんだね」

えっと。淡い緑色の瞳。
病的に白い肌に、真っ赤な髪の毛。

「君はもう二度とサッカーに関わらないと思ってたよ」
「え、と」

何かを言わないと。
1歩ずつゆっくりと近付いてくるその男の子に、何も言えない、体が強ばっていく……。

「そんなに怯えないでよ。君をいじめてたのは南雲達だったろ」
「や、来ないで……」

思わずボールを投げ飛ばせば、男の子に軽く当たりてんてん、と転がっていくボール。
酷く傷付いた様な顔のその人は、また会いに来るよと木の影へ消えていった。

震える体を抱きしめ、腰の抜けたまま座り込みサッカーボールを見つめた。

あの人は、誰。

私はきっとあの人を知っていて、でもそれは閉ざした記憶の向こうの人で。
思い出せないんじゃなくて、私は……。

「思い出したくない……の？」

「Aー！こんなところに居たのか。円堂が頭を打ったから雷雷軒に……大丈夫か？」
「あ、うん。大丈夫」

笑って誤魔化してボールを持った。
直ぐに皆と合流すれば、円堂くんの肩を修也くんと鬼道さんが支えた。

「荷物持つ」
「すまない、助かる」

修也くんと鬼道さんの荷物を受け取れば、木野さんは円堂くんから受け取った。
よろけながらも雷雷軒まで向かって、扉を開く。