第五十三訓 ページ9
久遠天海という男は宗教組織のトップであり、世間には公表されていないが人体実験を複数回行ってきた。余罪がいくつあるかも分からないし下手に刺激することもできないため、彼に事情聴取を行う手続きに時間がかかるのが難点だ。
幹部達の判子を貰う所謂スタンプラリーなんてものも幹部ひとりひとりところまで出向かないといけないのが面倒臭い。何より、あの強面揃いの幹部とワンツーマンなのがキツい。
土方さんの部屋に呼ばれた数日後、警察庁に出向いた近藤さんがどっと疲れた顔で屯所に帰ってきた。
その手には許可証が握られている。普通は許可の印鑑を全て得るのに1週間はかかるはずだ。
「あれ?1日で全員の許可得たんですかィ」
「ダメだった…」
「何が」
近藤さんは無言で俺に許可証を渡す。印鑑は何一つ押されていなかった。代わりに、許可証と別の紙が重なっていることに気付いた。そこには何やら長ったらしい文章があり、これを配ったであろう人間の名前には見覚えがあった。
「
「ああそうだ。最初の事情聴取の時、とっつぁんと一緒にいた人だ」
あの時は警察関係者がいた。とっつぁんの横にいた人があの碓氷か、と思い出す。警察庁の人間はとっつぁん以外にあまり知らないからすぐに思い出せなかった。
「で、その碓氷殿がどうしやした?」
そう尋ねて許可証と紙を返すと、苦虫を噛み潰したような顔をして近藤さんは唸る。
「どうやら4日後、天海氏の身柄を京に移すそうだ」
それを聞いて、思わず驚愕の声を漏らす。あまりに急すぎるのではないか。
「世間は連日過激宗教組織のトップが出頭したと、それだけで大騒ぎだ。ニュースも飽きるほどやってるだろ? しかもまだ信者が隠れている可能性は高い。だから世間には内緒でヘリで京へ身柄を移すそうだ」
「その準備で事情聴取はできないと」
「まぁそうだなぁ。あ、でも蒲生氏の事情聴取はいいって言われたぞ!」
汗を飛ばしつつ笑う近藤さんに思わず口元を緩める。それを見てほっとしたのか、近藤さんは気を取り直すと少し真面目な顔をした。
「明日にでも行こうと思うが、空いてるか?」
「大丈夫ですよ。Aにも伝えておきまさァ」
そう伝え、近藤さんの横を通り抜けると、彼は首を傾げた。
「出かけるのか?」
ピタ、と足を止め、振り返る。
「ええ、ちょっと。頼まれましてね」
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作者名：ぽん酢ちゃん | 作成日時：2019年7月14日 19時
