第二十九訓 ページ29
お茶を持ってきた眼鏡が「大丈夫ですよ、銀さんは万事屋なんで大抵のことはできますから」と微笑む。そしてあれよあれよと鏡が用意され、Aはその前に座らされる。
「飾り持ってる?」
「え、あ、ハイ。多少…」
そう言ってかご巾着の中から青や白といった大小様々な花の飾りを三人に見せる。
「神楽はなんか持ってるか?」
「そよちゃんに貰ったやつなら何個か持ってるヨ」
「そよ姫から貰ったやつ!?」
長くてつるりとした濡れ羽色の髪がとかれていくのを遠目で眺める。
「綺麗な髪ですね」
「…ありがとうございます」
「今日祭りなんてあったか?」
「
「あ〜あの大きな寺の一帯でやる祭りか」
「ええ、そうです」
うちの近くのとある寺の周りでやる祭りだ。屋台は寺の前の道や、そのすぐ近くの河川敷までひろがってでている。祭りの最後は河川敷で花火をあげるのが恒例となっている。
ふーん、と旦那は興味がなさそうに言う。逆に眼鏡とチャイナは行きたそうに旦那の目をキラキラした目で見つめていた。旦那は視線に気付いて、呆れたように「わあったよ」と笑った。
「俺達も行くか」
「わーい! ありがと銀ちゃん!!」
随分と本物の家族みてーなやり取りをしているな、とぼんやり思う。それはAも思ったそうで、無表情を貫いてはいるがその目は三人を羨ましそうに見つめていた。
その羨望の眼差しの奥で彼女が見ている光景がどんなものなのかは想像がつくようでつかない。そんな、ゆらゆらとした不安定な目だった。
他愛もない話をポツポツ続けているうちに、Aの髪が綺麗にまとまっていく。仕上げに飾りをつけながら突然旦那は切り込んできた。
「で、誰なの夜神総一郎くん」
「総悟です。…誰、とは」
「コイツだよ」
ポン、と両手を彼女の肩に置く。びくりと彼女の肩が跳ね、固く唇を結んだままAは俺の方に視線をよこす。
「御用改めで殺した攘夷浪士の娘だとか、それに巻き込まれた一般人の娘とか、そんなもんじゃないだろ? そんな奴らいちいち保護してたら今頃真選組は託児所だ」
「それを知ってどうしたいんですかィ、旦那」
別に〜?と半笑いで最後の飾りを差す。完成したというのにAの顔は晴れず、鏡も見ずに少し俯いて拳をぎゅうと握っていた。
その様子を見ながら旦那は急に無表情になる。この人が時折見せるこの顔は、悪い意味で鋭い。すべてとはいかないが大事な部分を見透かしている時の顔だ。
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作者名:ぽん酢ちゃん | 作成日時:2019年1月13日 19時