第二十四訓 ページ24
「神山ァ」
「はい、何ですか隊長」
真選組につき、車を降りようとする神山を止めて話しかける。ドアに手をかけていた彼は手を引っ込め、真剣な目付きで俺をじっと見た。
「明日にでもあの病院のA担当だった医者にアポとれ。入院当時のAの様子について詳しく聞きたいとか言えば疑われることはねーだろィ」
「了解しました」
芋侍が年頃の女を手懐けさせるのに苦労しているのだろう、と思ってくれればすんなり話は聴けるはずだ。勿論彼女の様子なんて聞く気は無い。もっと深いところに切り込んで、そのまましょっぴいてしまえるのならそうしようと思う。
と、神山がニヤニヤと笑った。何でィ、気持ち悪いと言えば、だって、とまた笑う。
「隊長があの子に手こずっているのは本当ですからね」
「次からかったら切腹」
「了解しました隊長!! 私の脇差をお使いください!!隊長とならば本望であります!! さぁ、私の奥までそれを刺し、いや挿して───」
明らかに切腹の話じゃなくてケツの話してるのが腹立つ。ケツにぶっ刺す代わりに脳天に突き刺してやり、車を降りた。
神山の言ってることは本当だからムカついたのだ。まだアイツは部屋にこもったままうんともすんとも言わずにじっとしているのだろうか…と廊下を進むと、黒い隊服ばかりが行き交う殺風景な廊下に、紅色の鮮やかな着物を纏った女が静々と歩いていた。
「…A?」
ぽろりと零れた名前に、彼女は振り向く。凛とした美しい顔だ。そして俺を見て微かに微笑むと、「おかえり」と口にした。
「怒ってないのかィ、もう」
「そうね、怒ってない。…貴方にも悪いことしたわね。ごめんなさい、嫌いなんて言って」
「は…何でィお前、急に素直になりやがって…」
そのままの疑問を口に出すと、彼女は吹っ切れた顔で「ウジウジ悩むのはもうやめたの」と笑った。
「私は今普通に歩いている。前は勝手に部屋の外に出ることすら許されなかった。今私は初めて一人の人間として息をしている気がするの」
やけに壮大な話だが、彼女にとってはそうなのだろう。俺と同じ年月、彼女にとっての世界とはあの小さな部屋だけだったから。
「もう…この体は散々いいように使われてしまったことは消えない。それはとても気持ち悪くてつらくて悲しくて憤りを感じるけど、貴方はそれでも綺麗だと言ってくれた。それだけで多分、すこし救われたの」
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作者名:ぽん酢ちゃん | 作成日時:2019年1月13日 19時