第二十二訓 ページ22
「そのことをそのまま沖田くんに伝えなさいよ」
「え、どうして…」
「いいから!!ほら早く!!」
くるりと背中を向かされ、そのままドンと押される。数歩先でバランスを取って後ろを振り返ると、女中はにやにやしながら親指を立てた。
*
と、言っても。今の時間帯は皆仕事をしている。今日は確か非番ではなかったはずだ。…どこかでサボっているなら話は別だが。
誰なら知っているだろう…と屯所内をうろうろしていると、角からでてきた誰かとぶつかる。よろけて転びそうになって咄嗟に手を伸ばすと、ぶつかった人物は私の手を掴んでくれた。
あ、と私は目を見開く。
「土方」
「さんを付けろ、さんを」
着物をはたいて土方を見つめる。私に見られて気持ちが悪いのか土方はタバコの火を消しながら「なんだよ」と呟く。
「総…沖田知らない?」
「総悟? 一番隊は今捜査に出てる」
「そう」
「もう仲直りしたのか?」
違う。仲直りをしようとしているところだ。堪えないで黙ったままでいると、土方は察したようだった。
「アイツも悪い奴じゃないんだ。ガキだから自分の気持ちに正直なだけだよ」
「…本当に私を綺麗だとでも思っているの、あの人」
「外も内も綺麗だと俺は思うけどな」
…変な感じがする。今まで受けてきた言葉や暴力とは正反対で、下唇を噛んだ。
「…父、は…私のことをどう思っていたんだろうって、最近思うの」
父は一般的に聞く父親ではなかった。彼は私に酷いことはしなかった。物腰も柔らかく、私を怒鳴ることなどしなかった。
だが、それは子供としてではなく、道具として大切にしているようだった。実際、彼は私の体を使って神と交信するのです、なんて信者の前で演説していた。
「父は全部正しいことだと思ってる。悪いことなんだって気付いていない。父は本当に世界の平和を願って活動してた」
愛は貰った。貰っていたんだと思う。私はそれを愛だとは全く思わなかったけど、父にとっては親が子に与える愛そのものだった。
「ここで貰う愛は、今まで生きてきた中で貰った愛とは違う。どれが正しい愛だって貴方には分かる?」
沖田のあの言葉や、行動で混乱してしまうのだ。
愛の定義なんて人それぞれ違う。与えたり、貰ったり、奪ったり。だが定義は違えど皆それを愛だと思っている。私はこの気持ちが本当に愛なのか分からない。
「私が愛を知れば、後悔するかもしれない。彼が私のこの気持ちに気付けば、辟易するかもしれない。それが怖いの」
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作者名：ぽん酢ちゃん | 作成日時：2019年1月13日 19時
