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第七十九訓 ページ38

「神威」


名を呼ぶと、彼は私のひどく濡れた髪を撫でた。彼の細く白い指が私の髪を梳く。私はその手首を掴み、手の平に唇をそっと触れさせた。


「好き」


たった二文字だが、そこに私の全てが詰まっていた。堰が切れたように私はその言葉を彼に向けて何度も発した。


「貴方が好き。好きすぎて気が狂いそうなほど。とても…とてもよ」


阿伏兎がそろりとこの場から離れるのが神威の背中越しに見えた。彼なりに気を利かせたのか、それとも気恥ずかしかったからか。神威は差ほど気にしていないようだった。
神威は私の言葉をひとつひとつ刻み込むように目を伏せていた。そして可愛らしい小さな唇をきゅっと結び、口角を上げた。意地悪な笑みで私の目を捉える。童顔から覗くその妖艶さに、ぞくぞくと体が震えた。


「じゃあ、一緒に狂ってしまおうか」


グイ、と彼は私の手首を掴んで抱き寄せる。彼の吐息が耳にかかり、思わず力が抜けてしまったが、彼は私を強く抱き締めているため崩れ落ちることはなかった。
彼の手が腰に回される。私も彼の背中に手を回す。何時間とも思える間、私達は見つめあった。曇天の中で彼の空色の目がひどく映える。
気付いたら、ゆっくりと、唇を重ねていた。彼は急ぐことなく舌を絡めてくる。こんなキスは初めてで馬鹿みたいに声が漏れてしまう。


「ふ──ンン……あ…待っ、て… 」


おかしくなってしまう、と途切れ途切れに伝えると、神威は「狂っちゃおうって言ったでしょ」とイタズラをした子供のように笑った。


「Aも俺も、馬鹿になれば恥ずかしくないだろ?」
「……馬鹿」


脳髄から溶けてしまいそうなお互いの甘い声が病みつきになる。外側は雨に濡れて凍りつきそうなほど寒いのに、内側は燃えているかと錯覚するくらい熱かった。
雨は依然やまない。そのまま私達を濡らして欲しかった。その雨音で、私達のこの愛の音を隠せばいい。誰にも気付かれない、秘密の、馬鹿になるほどのキスを邪魔されたくなかった。

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設定タグ:銀魂 , 神威   
作品ジャンル:アニメ
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きんぴらごぼうちゃん(プロフ) - ねこさん» ありがとうございます! 原作での神威の発言から察するに、神威は異性を見る時まずどんな子を生むか考えるんだろうなと思いながら書きました。でも見た目にもうるさかったらいいなとも思いました笑 応援とても励みになります。精一杯頑張ります! (2018年9月8日 0時) (レス) id: 6ee86a90be (このIDを非表示/違反報告)
ねこ - とつても面白いです。主人公の設定とかとても良いと思います。神威のセクハラプロポーズのところが新鮮で良かったと思います。更新待ってます。頑張ってください。 (2018年9月6日 23時) (レス) id: 34ad78a799 (このIDを非表示/違反報告)
きんぴらごぼうちゃん(プロフ) - kamiyakazi725さん» お返事遅れてしまい申し訳ございません。応援していただきありがとうございます!なかなか時間がなく、更新もかなり遅めですが完走できるよう頑張りますので、これからもよろしくお願いします! (2018年8月14日 14時) (レス) id: 6ee86a90be (このIDを非表示/違反報告)
kamiyakazi725 - とても面白かったです!更新楽しみにしています!神威&夢主ちゃん大好きです!神威かっこよすぎて鼻血g← 頑張って下さい!応援してます! (2018年7月23日 22時) (レス) id: 7058246684 (このIDを非表示/違反報告)
きんぴらごぼうちゃん(プロフ) - 吾君トさん» 吾君トさんありがとうございます!更新遅くて申し訳ないです…。なんとか合間を縫って頑張りますので、これからもこの作品をよろしくお願いします!! (2018年6月15日 17時) (レス) id: 6ee86a90be (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きんぴらごぼうちゃん | 作成日時:2018年5月30日 18時

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