第七十七訓 ページ36
沖田と別れ、Aが向かったのは日本支部跡地だ。ここ最近雨続きなので、瓦礫を運び出す作業は一向に進まず、現場はあの時から一つも変わってはいない。Aは近くで作業をする男性に話しかけた。男性は彼女を見ると一息ついて作業を一旦止める。
「また来たのお嬢ちゃん。アンタも大変な時に熱心だねぇ」
Aは既に有名人だった。彼女は文面のみで宇宙中に告発したが、どこのメディアかが彼女を調べあげ特集を組んだのだ。思えば、そこから宇宙中のありとあらゆるメディアに取り上げられるようになった。
まだ十七と若いながらも、本部に身を置く捜査官。見た目も十分に良く、(事実だが)聡明に見える。何より、腐敗しきった宇宙警察内部にたった一人で立ち向かった正義感溢れる捜査官ともなれば、彼女を批判する者は現れなかった。
男性は彼女が毎日かかさず跡地に現れる理由を知っている。知った上で「すまないねぇ」と謝った。
「夕陽色の髪をした青年だろう?残念だけど今日も見つかってないよ」
Aの顔が晴れない理由は、それだった。
ここでしている作業とは、瓦礫の処理だけではない。行方不明者の捜索が主な作業内容だ。毎日誰かの遺体は見つかるが、神威のものは発見されていなかった。
あの抗争からあと数日で一週間経つ。覚悟はしていたが、こうも見つからないとつらかった。せめて、遺体さえ目にすれば受け入れられると思うが、それさえも見つからないとなれば申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「連日この雨じゃあねぇ。また明日も探すからそう気を落とさないで。今日はもう切り上げるから、お嬢ちゃんも早く帰んな。そんなにずぶ濡れじゃあ風邪をひくよ」
そう言って彼は他の作業員と共に車に乗り込み、いなくなった。無人になった跡地で、彼女は瓦礫をかき分けていく。毎日毎日、一人で彼の姿を探し続けた。何時間も雨に濡れながら、瓦礫をどかしたり覗き込んだりした。無謀なのは百も承知だったが、やめる選択肢はなかった。
今日の雨は冷たい。寒さに手がかじかむ。息を当て、また瓦礫をどかそうとした時だった。
「嬢ちゃん、もうやめな」
誰の声かは分かった。だから振り返らなかった。
「…殺しても死なないって言ったのは、貴方じゃない」
「だがもうその行為に意味はないさ。風邪ひくぜ」
「神威だってこんなところにいては風邪をひいてしまう。私だけ甘えられない」
冷えきった手が、遂に震え始めた。
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きんぴらごぼうちゃん(プロフ) - ねこさん» ありがとうございます! 原作での神威の発言から察するに、神威は異性を見る時まずどんな子を生むか考えるんだろうなと思いながら書きました。でも見た目にもうるさかったらいいなとも思いました笑 応援とても励みになります。精一杯頑張ります! (2018年9月8日 0時) (レス) id: 6ee86a90be (このIDを非表示/違反報告)
ねこ - とつても面白いです。主人公の設定とかとても良いと思います。神威のセクハラプロポーズのところが新鮮で良かったと思います。更新待ってます。頑張ってください。 (2018年9月6日 23時) (レス) id: 34ad78a799 (このIDを非表示/違反報告)
きんぴらごぼうちゃん(プロフ) - kamiyakazi725さん» お返事遅れてしまい申し訳ございません。応援していただきありがとうございます!なかなか時間がなく、更新もかなり遅めですが完走できるよう頑張りますので、これからもよろしくお願いします! (2018年8月14日 14時) (レス) id: 6ee86a90be (このIDを非表示/違反報告)
kamiyakazi725 - とても面白かったです!更新楽しみにしています!神威&夢主ちゃん大好きです!神威かっこよすぎて鼻血g← 頑張って下さい!応援してます! (2018年7月23日 22時) (レス) id: 7058246684 (このIDを非表示/違反報告)
きんぴらごぼうちゃん(プロフ) - 吾君トさん» 吾君トさんありがとうございます!更新遅くて申し訳ないです…。なんとか合間を縫って頑張りますので、これからもこの作品をよろしくお願いします!! (2018年6月15日 17時) (レス) id: 6ee86a90be (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きんぴらごぼうちゃん | 作成日時:2018年5月30日 18時