第七十四訓 ページ33
『冷泉』
『何だい、Aさん』
『…私、強くなるから。もうこんな気持ちになりたくない』
『そうかい。私もこんな気持ちはもう御免だ』
『だから、冷泉。貴方は絶対死なないで』
『それは…はは、何故かな』
『貴方が死ぬ時は、私が、』
「殺してでも救うって…約束したのに」
ぽろりと涙がこぼれる。
「貴方は私の親を殺した。薬にも手を出した。罪を償ってほしい。こんなところで私なんかを庇って死んだら許さない」
まだ諦めてはいけない。冷泉は喋れる程まだ『余裕』があるということだ。救急車が到着するまであと少しかかるだろうが、それまで彼の容態をこれ以上悪くしなければまだ…助けられるかもしれない。
立ち上がって辺りを見回す。崩落はまだ続くだろう。いまのうちにここを離れなければ次の崩落に巻き込まれるかもしれない。私は体の至る所に隠していた武器を全て地面に置いた。そして彼の肩を担ぎ、建物から離れる。
「私のことは置いていきなさい…。君まで崩落に巻き込まれたらどうするんだ…」
「お願いだから喋らないで。死んだら殺すから」
「…矛盾してるよ…」
ひょこひょことゆっくり足場の悪い中進んでいく。手負いの男を女が運ぶのは些か無理があったか。彼の方が傷は深いが、私も至る所から出血していた。ガクガクと体が震える。そして遂に倒れてしまいそうになった時だった。
「おっと危ない。大丈夫か嬢ちゃん」
「…あ、貴方…」
私と彼を支えたのは、第七師団副団長──阿伏兎だった。彼は外から様子を伺う役目だったが、建物が崩れ始めたのでやむを得ず突入したのだろう。何はともあれ助かった。
阿伏兎に冷泉をおぶってもらうよう頼むと、彼は快く了承してくれた。一言謝って彼を託す。阿伏兎は彼の腹に突き刺さった鉄パイプを慎重に抜きながら、「団長は?」と短く聞いた。その役職名に、私は息を一瞬止めた。
「…神威は…私を庇って落ちた。かなりの高さから落ちたし、何よりあの瓦礫の下敷きになっているかもしれない」
私の声が暗くなったのが分かったのか、阿伏兎は自らのマントをちぎって彼の止血をしながら、「そうか」とだけ応えた。耐えきれず私は顔を覆う。
「…ごめんなさい。私を責める権利が貴方にはある。生きてるって信じてるけど、絶望的な結果かもしれない」
もう一度ごめんなさいと謝ると、しばらくしてぽんと頭の上に手が乗った。
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きんぴらごぼうちゃん(プロフ) - ねこさん» ありがとうございます! 原作での神威の発言から察するに、神威は異性を見る時まずどんな子を生むか考えるんだろうなと思いながら書きました。でも見た目にもうるさかったらいいなとも思いました笑 応援とても励みになります。精一杯頑張ります! (2018年9月8日 0時) (レス) id: 6ee86a90be (このIDを非表示/違反報告)
ねこ - とつても面白いです。主人公の設定とかとても良いと思います。神威のセクハラプロポーズのところが新鮮で良かったと思います。更新待ってます。頑張ってください。 (2018年9月6日 23時) (レス) id: 34ad78a799 (このIDを非表示/違反報告)
きんぴらごぼうちゃん(プロフ) - kamiyakazi725さん» お返事遅れてしまい申し訳ございません。応援していただきありがとうございます!なかなか時間がなく、更新もかなり遅めですが完走できるよう頑張りますので、これからもよろしくお願いします! (2018年8月14日 14時) (レス) id: 6ee86a90be (このIDを非表示/違反報告)
kamiyakazi725 - とても面白かったです!更新楽しみにしています!神威&夢主ちゃん大好きです!神威かっこよすぎて鼻血g← 頑張って下さい!応援してます! (2018年7月23日 22時) (レス) id: 7058246684 (このIDを非表示/違反報告)
きんぴらごぼうちゃん(プロフ) - 吾君トさん» 吾君トさんありがとうございます!更新遅くて申し訳ないです…。なんとか合間を縫って頑張りますので、これからもこの作品をよろしくお願いします!! (2018年6月15日 17時) (レス) id: 6ee86a90be (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きんぴらごぼうちゃん | 作成日時:2018年5月30日 18時