第七十三訓 ページ32
激痛と共に目が覚める。そして私は息を呑んだ。
私は特に大きな傷を負っていなかった。その理由を一瞬で理解出来た。
冷泉は私の息がかかりそうなほど近くにいた。
真上にいたのだ。
私に覆いかぶさるようにして大きな瓦礫の重さに耐える彼の腹には太い鉄パイプが刺さっていた。
ごくりと唾を飲み、震える声で「冷泉、」と名を呼んだ。
「貴方、何をしているの。瓦礫から私を守ったの?…い、いや…それよりお腹…ち、血が…」
まず瓦礫をどかそうと歯を食いしばって押した。ゆっくりとだったが瓦礫は持ち上がり、ズシン…と音を立てて倒れた。同じように私に倒れかかった冷泉を受け止める。
「何で…貴方…さっきとまるで態度が違う。貴方私を殺そうとしてたのにどうして庇ったの?」
荒かった息がだんだんと細くなっていく。ゾッとしながら彼の手を握った。冷泉は脂汗を額に浮かべながら、力なく口角を上げた。
「…結局は…私も馬鹿だったんだよ。心の奥では君を本当の娘だと思っていたんだろうね。あまりにも君と居た時間が長かった…」
「…今救急車を呼ぶ。喋っちゃダメ」
「呼ばなくていい。どうせ生き残っても上層部に消されるのが目に見えている」
「…本当に馬鹿になってる。私が「わかりました。呼びません」と言うとでも?」
「…はは、それもそうだね…」
救急車を呼んだが、ここに来るまでに彼の心臓が動き続けるかが問題だった。心停止だったら人工呼吸とAEDで何とかなったかもしれない。だが致命傷を負っているとなるとどうにもならない。この崩落でもう救命具がどこにあるかなんて分かりはしないだろう。
冷泉が死ぬかもしれない。生存は絶望的だった。彼の手を握る力が強くなる。彼は「痛いよ」と微かに笑った。
「…親のような気持ちになるなんてね。君を殺すためにここに来たのに」
「冷泉」
「ああ、本当に馬鹿だ。大馬鹿だ。本当、何で君を庇ったんだろう…絶好の機会だったのに…」
「冷泉、もういいから」
玖珂さんが死んだ時のことを思い出す。あの時、もうこんなにつらい思いはしたくなくて強くなったのに、私はまたあの時と同じ思いをしている。あの時誓った言葉が虚しく突き刺さった。
「絶対死なないでって…言ったのに…私はまた親を…」
あの時病院で冷泉に誓った言葉が蘇る。
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きんぴらごぼうちゃん(プロフ) - ねこさん» ありがとうございます! 原作での神威の発言から察するに、神威は異性を見る時まずどんな子を生むか考えるんだろうなと思いながら書きました。でも見た目にもうるさかったらいいなとも思いました笑 応援とても励みになります。精一杯頑張ります! (2018年9月8日 0時) (レス) id: 6ee86a90be (このIDを非表示/違反報告)
ねこ - とつても面白いです。主人公の設定とかとても良いと思います。神威のセクハラプロポーズのところが新鮮で良かったと思います。更新待ってます。頑張ってください。 (2018年9月6日 23時) (レス) id: 34ad78a799 (このIDを非表示/違反報告)
きんぴらごぼうちゃん(プロフ) - kamiyakazi725さん» お返事遅れてしまい申し訳ございません。応援していただきありがとうございます!なかなか時間がなく、更新もかなり遅めですが完走できるよう頑張りますので、これからもよろしくお願いします! (2018年8月14日 14時) (レス) id: 6ee86a90be (このIDを非表示/違反報告)
kamiyakazi725 - とても面白かったです!更新楽しみにしています!神威&夢主ちゃん大好きです!神威かっこよすぎて鼻血g← 頑張って下さい!応援してます! (2018年7月23日 22時) (レス) id: 7058246684 (このIDを非表示/違反報告)
きんぴらごぼうちゃん(プロフ) - 吾君トさん» 吾君トさんありがとうございます!更新遅くて申し訳ないです…。なんとか合間を縫って頑張りますので、これからもこの作品をよろしくお願いします!! (2018年6月15日 17時) (レス) id: 6ee86a90be (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きんぴらごぼうちゃん | 作成日時:2018年5月30日 18時