【銀魂】兎と武器庫 弍【神威】

第四十四訓 ページ3

俺達は付き合っているわけではない。
お互いがお互いを想ってるのはとっくに分かってるし、キスだってしたけど、付き合ってくださいなんて言ってないし言うつもりもない。今はそんな時じゃないって分かってるからだ。

だからこそ、彼女を独占したかった。
こんな気持ち今まで味わったことないけど、相当苦しい。そして、甘い。
彼女がそこにいるだけで愛おしい。こんな状況じゃなかったら一日中家で一緒にいたいし、愛でていたい。

だけど彼女が今こうして誰かに怒ったり憎悪を向けたり、昔何かしらの関係があった人に感情を顕にしているのを見ると心がザワザワする。どんな負の感情でも、俺はそれを面白く思わない。
…重症だな、と苦笑した。

胸が震えた。携帯の着信が入ったみたいだ。でも今は状況が状況なので彼女にとってもらう。
Aは「はい」とだけ言うと、マイクを抑えて俺の方を見た。


「貴方の連れ」
「阿伏兎?」


適当な場所に一旦降りて、携帯を代わる。こちらが用件を聞く前に「今どこだ?」と阿伏兎は聞いてきた。近くにある店の名前を言うと、分かった、とだけ返してきて通話は切れた。数分後、阿伏兎が近くに迎えに来た。
阿伏兎は来るなり傘で人目を避ける。この辺境の星じゃあ俺たちの名と顔は知れ渡ってないというのに、今更何を警戒するのか疑問に思った。
阿伏兎はコソコソと俺達に耳打ちをする。


「団長、嬢ちゃんにマント貸してやれ」
「何で?」


そう尋ねつつ俺はマントを脱いでAに渡す。彼女も阿伏兎の次の言葉を待ちながら少しブカブカなマントを羽織った。
阿伏兎は神妙な面持ちでスマートフォンを見せてきた。動画だ。再生ボタンを押すと、そこにはあのおばあさんの家で捜査を行っている警察官二人がコソコソと何かを話していた。画面が二人に近づき、何とか盗み聞きできる声量になった。警察官の一人が驚愕の声をあげる。


『さっきの宇宙警察の女が指名手配?』
『ああ、さっき上からお達しが来た。桜雅崎A捜査官を見つけ次第捕らえよ、と』
『何をしたんだ、その捜査官殿は』
『さぁ…重大な規約違反と聞いたが…』
『大江戸警察だけか?』
『いや、真選組とかにもお達しはいったらしい』
『真選組ねぇ…これはもう俺達下っ端が手を出すような案件じゃねぇな』


動画はここで止められた。
張り詰めた空気が流れる。Aはいちばん緊張した表情で、動画が終わった後もスマートフォンを凝視していた。

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